第85話 会場に侵入する件について
晴れ晴れとしていた空はすっかりと闇色に染まり、無数の星々が点在していた。
時間を見ればパーティまで二十分を切っている。
そろそろだと思い、俺は荷台から顔を出して、車の中から周囲を見回す。
ここは外にある駐車場らしく、すでに多くの車が停まっていた。
ヒーロをその手に抱えると
実はもうコイツを服の中に隠す必要はない。
現在35レベルとなり、ポイントも38あったので、30ポイントを消費して《ステルスⅤ》を獲得しておいたのだ。
そのお蔭で、制限時間は三分のままなのは残念だが、任意で俺に触れているものまで効果を発揮させることができるようになったのである。
これでさらに隠密度だけでなく、ヒーロを使っての奇襲の自由度が広がった。
ちゃんと車はスペアキーでロックしておき、周りを警戒しながら屋敷の方へと走っていく。
ちょうど招待された者たちが、屋敷へと向かっていたので、そこに便乗させてもらう。
扉の前に陣取っているコワモテのSPみたいな奴が、招待状を確かめたのちに扉を開いて、招待客を中へと入れていく。
中にはメイドが待ち構えていて、招待客をパーティ会場まで案内してくれるようだ。
どうやら真っ直ぐ突き当たりにある大部屋が、その会場らしい。
俺は招待客が屋敷に入るその隙を狙って潜入に成功すると、会場ではなくまずは隠れられる場所を探すことにする。
とはいっても、かなり広い屋敷で部屋数も多いし隠れる場所には困らなさそうだ。
会場から見て右側の通路へと向かい、一つの扉の前でノックをしてみる。
……返事がない。
俺は静かに扉を開き、中に誰もいないことを確認すると速やかに入った。
「ふぅ~。一応潜入は成功だな……って、すげえなこりゃ」
屋敷の広さもそうだが、この部屋には凄まじい数の服が収められていた。
タキシードやらドレスやら、どれも高価そうなものばかり。
「せっかくだから目立たないように、俺も着込んでおくか?」
仮に《ステルス》を解いても、その姿に違和感が無いようにはしておきたい。
ということで、俺に見合った程度のスーツを見繕っていく。
目立たないようなグレーのスーツを選んで身に着け、懐にはヒーロを忍ばせておく。
「あ、いや待てよ。そうだヒーロ、《擬態》を使って俺の髪色を変えられねえかな?」
「キュキュ? キュ~キュキュ!」
どうやらできるみたいだ。さすがに顔全体を変えるほどのレベルには無いみたいだが、俺の頭部を覆い、髪色や髪型くらいなら変化させることができるらしい。
ということで俺は、彼女に《擬態》を使ってもらい見た目を変えることにした。この部屋には伊達メガネなどのワンポイントアクセサリーもあるので、せっかくだから使わせてもらうことにする。
そして姿見で一応確認してみる。
「お~、やっぱ金髪にするとかなり印象が変わるなぁ。眼鏡も悪くないか。どうだヒーロ?」
「キュ~ッ!」
ヒーロもお気に召してくれたようだ。
しかしこれなら《ステルス》を使わなくても、俺だってバレないだろう。
これでできる限り気力を温存することができそうだ。
「よし、じゃあ会場へ行ってみるか」
俺は《ステルス》を使ってパーティ会場へと足を延ばす。
「うほぉ~、さっすがは大金持ちのご令嬢のパーティだなぁ」
一般的な体育館の十倍くらいあるんじゃなかろうか? いや、さすがに言い過ぎかもしれん。
だがそれくらいに感じるほどの規模である。
立食パーティーの体裁を整えているようで、恐らくは超一流であろう料理人たちが、すでに料理をテーブルの上に並べている。
まだパーティー自体は始まっていないので誰も手は付けてないが、多くの者たちは数々の料理を目にして口にしたそうにしていた。
部屋の突き当たりには舞台が設置してあり、中央にはスタンドマイクが立っている。
皆が、酒やジュースなどが入ったグラスを手にし歓談中だ。
俺はそんな中から、ヒオナさんがどこにいるか探す。
すると舞台近くのテーブルに見知った顔を発見する。
四奈川と暗殺メイドだ。
この風貌で気づかれるとは思わないが、それでもアイツらの視界にできるだけ入らないように動こう。
さて、ヒオナさんは…………お、いたいた。
彼女はテラスがある傍の壁に背を預け、まるで観察するかのように周囲の者たちを見回していたのである。
俺はそんな彼女に近づき、トントンと指で肩を叩く。
「!? 誰っ……!?」
「しーっ! 俺ですよ俺!」
「え……!? まさか六門?」
俺はコクコクと頷くと、ヒオナさんはより一層警戒しながら周りを見回すと、そのままテラスの方へ移動するように言うので、一緒に会場から出て行く。
「まったく、何よその恰好。ビックリしたじゃない」
「あはは、いやぁ、ちょっとヒーロに髪型を変えてもらってて」
「! なるほどねぇ。ふ~ん……結構似合うじゃない」
「そうですか? 男前が上がりましたか?」
「元々の根暗オーラが強いからそうでもないけどね」
ぐふっ……さ、さすがは俺のネガティブ力。
「うん、でもそれなら六門って分からないわ。絶対にね。考えたわね、やるじゃない」
「ありがとうございまっす。ところで…………大胆っすね、その恰好」
ヒオナさんの姿は、まるでハリウッド女優かってぐらいに、露出度の高いドレス姿だ。
特に彼女の持つ凶悪過ぎる母性の象徴なんて、もう少しでプルリンッと顔を出すほどに強調されているし、脚部にはスリットまで入っているので、男には目の毒であろう。
「うふん……どう? なかなかセクシーでしょう?」
「シオカがいたら絶対にハレンチだって怒るでしょうけどねぇ」
俺はまあ大歓迎だし、目の保養になってありがたいが。
「あらら、女と二人でいる時に、他の女の話題はタブーよ?」
月光に照らされながら髪をかき上げる彼女は、どこか神秘的な妖艶さを醸し出しており、思わず喉が鳴るほど魅入られてしまっていた。
するとその時、会場の方からざわつきが聞こえてくる。
「あら、どうやらパーティーが始まるみたいね。行きましょうか」
「いやいや、さすがにずっと傍にいるのは目立ちますから。俺は後で行きます」
「そう? エスコートしてもらおうって思ったけど、それなら仕方ないわね。じゃあまた後でね」
チュッと投げキッスをしたヒオナさんは、そのまま一人で会場へと戻っていく。
俺も少し遅れて会場に入ると、全員が舞台に注目していたところだった。
舞台の上にはただ一人――煌びやかなゴスロリに着飾った、このパーティーの主催者の姿があった。
「ふふふ、堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。今日はこの一ノ鍵織音の呼びかけに応えてくれたことに感謝しているわ。存分に楽しんでちょうだい、乾杯」
本当に短い言葉だけで終わり、彼女はそのまま舞台を降りていった。
そして待ってましたと言わんばかりに、皆が料理に群がっていく。
「んじゃ、俺らもちょっとくらいは楽しませてもらいますかね、ヒーロ?」
「キュキュキュ~!」
俺は多種多様に並べられた料理から、適当に見繕って一つのテーブルへと着く。
「うんまっ!? これうんまっ! 何だよこのステーキ!? 口に入れた途端に溶けたんだけど!?」
サラダ一つとっても、どれも一般的な家庭で口にするようなものとは一線を画しているほどの美味さである。
寿司や天ぷらなど、身近なものも豊富にあるが、美味さの格が違う。きっと店で食ったら、目も当てられないほどの値段を支払うことになるのだろう。
「キュ~キュ~!」
あーはいはい。お前も腹減ったってわけね。わーったよ。
俺は皿一杯に料理を盛って、そのまま誰もいないテラスへと出ると、ヒーロを元の姿に戻して食事させてやった。
「どうだ? 美味えか?」
「キュ~! キュキュキュキュ~!」
何でも食うコイツも、大満足の料理らしい。てか、皿まで食うなよ……。
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