第11話 ステータス持ちに二つ名がついた件について
朝起きてスマホを見たが、両親からの連絡はまだ無かった。
まあ便りがないのは元気の証拠ともいうし、あの自由奔放、豪放磊落という言葉が服を着て歩いているような親が死ぬところなど想像もつかないけど。
新たに情報がないかテレビをつける。
どのチャンネルもやはり同じニュースを取り上げていた。
ほとんどがダンジョン化した場所や、その対策法などのレクチャーである。
しかし昨日の一日でステータスを持つ存在の情報が集まったのか、その者たちについての情報も伝えられていた。
「ステータスを持つ者のことを……『
確かに区別するには呼び名も必要かもしれないが、『持たざる者』たちが何て言ってくるのか少し怖い。
まあアメリカの大統領がそう名付けて、それが広まったようだが。
そして当然のように『持ち得る者』は、無暗に力を振るったり、ダンジョンに挑むようなことをしないように通達されている。
「そんな呼びかけ意味ないと思うけどな」
人間、力を持てば試したくなるし、比較的面倒ごとが嫌いな俺だって、もうすでにダンジョンを二回も攻略している。
今後も力を使わないといった選択なんてないし、それどころかもっと多くのスキルを使いたいとさえ思っているのだ。
またその力を悪と呼ばれる方面に使う連中だっているし、すでに行われている可能性は非常に高い。
とはいえ国として呼びかけを行わないというわけにもいかず、あくまでもマニュアルに沿っただけだと思うが。
「……あ、そうだ。あの黒いヤツはどうなったんだ?」
昨日世界の七か所に突如出現した黒い球体について気になった。
ちょうどそれを取り上げているニュースがあったので確認する。
すでにアメリカでは、昨日に軍が出動して黒い球体に接触を図ったそうだ。
だが様々な方法で検討してみても、球体の正体は分からずじまいらしい。
さらに近づこうとすると、見えない壁のようなものが球体の周囲に構築されていて、触れることさえできないようだ。
それは他の場所でも同じようで、球体に触れた者はいないとのこと。
「あんなものによく近づこうって思うよな。明らかに不気味だし危険そうじゃんか」
まるでブラックホールみたいだし、俺なら絶対に近づきたくない。
球体については、何か分かり次第随時伝えていくとのことだ。とはいっても、すでにメディアに出されている情報以上のことはしていると思うが。
国によってはミサイルやら何やらで砲撃している可能性も高いし、中には『持ち得る者』の特性を活かした干渉だってしているかもしれない。
オレはトーストを焼いて簡単な野菜サラダを作って食べながらスマホを見ると、『ワールド』が数件来ていたことに気づく。
そこにはさっそくとも言おうか、四奈川とメイドからメッセージが入っている。
とりあえず先に四奈川のを確認した。
「ていうか昨日の夜もいろいろ送ってたんだなぁ。あとで確認しとこ」
とりあえず直近のを見ると、朝の挨拶があったので、俺も軽く「おはよう」と挨拶をすると、すぐに返信が返ってくる。しかもちゃんと朝飯は食ったかだの、服はちゃんと着替えたかだの、歯磨きをしたかだの。
お前は俺のかーちゃんか!
次にあまり見たくないがメイドの方を確認した。
〝おはようございます。朝からあなたにメッセージを送るなど不愉快の何ものでもありませんが、死んでくれませんか?〟
え? 何これ……これが……涙? 僕……泣いて……るの?
思わず目頭が熱くなったと思ったら、無意識に涙が流れていたようだ。
「つーか辛辣過ぎだろあのメイド! 朝から死ねってどういう挨拶だよ! 不愉快なら送ってくんなよな!」
すると俺がメッセージを読んだことに気づいたのか、追加メッセージが送られてきた。
〝既読スルーですか。そうですか。わざわざ挨拶をさせて頂いたのにこの仕打ちですか。今度会う時が楽しみですね💘〟
こっわっ! てかこっわっ!
大事なことだから二回言いました。
つーかこのハートを矢が射抜いてる構図。物理的にマジでこうしますよってことじゃねえだろうなぁ。
「あのメイド……マジで物騒だなおい。つーか次に会った時殺されんの俺? ……殺されないよね?」
こんなんで殺すなんてどこのヤンデレなんだか。
いや、ヤンデレはまだ愛情があるからマシだろう。コイツの場合は百パーセントの殺意だから恐怖と絶望しかない。
ふっ、だが舐めるなよ。今の俺はその気になったらどんなことだって回避できるスキルがあるんだぞ。あんなメイドの一人や二人……あ、またメッセージ来た。
〝またも既読スルーですか。仏の顔も三度までとは言いますが。……ぶち殺しますよ?〟
……ふふ、良かろう。ならば戦争だ!
俺は閃光のごときスピードで返信をした。
〝マジですみません! 許してください、メイド様! 何でも致しますので! 何とぞ~!〟
………………いやだってさ。やっぱ怖いもんは怖いじゃん。
これは……あれだ。相手の敵意を弱めるという立派な回避術だから。うん、そう。そういうこと。だから俺は正しい。間違ってない。
すると間髪置くことなくまたもメッセージが。
〝何でもですか。いいでしょう。その心構えに今回は許して差し上げます。それと私のことは葉牧と呼んで頂いて結構です。ところで本日もお嬢様がお会いしたいと申されているのですがよろしいですか? 私としては断ってもらいたいですが、それでお嬢様が悲しまれたら……分かりますよね?〟
……何つー上から目線……! そしてやっぱり怖い!
てか今日も会いに来るのかよ……四奈川はともかく、メイド……葉牧さんには会いたくねえんだけど。
よし、ここは素直に分かりやすく断ろう。何気なく、いかんともしがたい用事がある素振りを見せて。
〝今日ですか? 今日はアレがこうなってコレでして、ですから超忙しいんですよー〟
あー全然分かりやい文章じゃなかった。
〝は?〟
何だろうか。たった一文字なのに、何故かこの文字から暗黒オーラが滲み出ているんだが……。
〝は?〟
……あれ?
〝は?〟
……んん?
〝は?〟
あれれ~、おかしいぞ~。おんなじ言葉がたっくさん送られてくる~。
〝…………は?〟
俺は察した。この最後の〝は?〟が最後通告なのだと。
だから俺は勇気を出してこう返信した。
〝お茶請けを用意してお待ちしております。いつでもどうぞ〟
………………いやだって、オレってほら紳士だし? 女性の頼みを断るとかそんなことしない紳士だし? 決して殺意を感じたからじゃないよ?
〝男らしくさっさと許可を出すなら出してください。では午前十時にそちらに向かいます〟
じゅ、十時ぃ!? もうあと十分もねえじゃん!
俺はすぐに準備をし始める。最低限の掃除くらいしておかなければ、あのメイド――葉牧さんに何を言われるか分かったものじゃないからだ。
こんなことならもう少し早く起きておくんだった。
そうして瞬く間に十分が経つ。
――ピンポーン。
うわ、マジで来た。
玄関に出迎えると、そこには天使のような純粋無垢な笑顔を浮かべる四奈川と、悪魔がごときオーラを携えたメイドさんがいた……ら良かったのだが。
「むぅぅぅ~!」
何故か天使は膨れっ面だった。あ、メイドは昨日とそう変わらないが。
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