第12話 メイドなのに強過ぎる件について
「あ、あの……どうして不満そうなんでしょうか……四奈川さん?」
「もう! 昨日約束しましたのに!」
……はい? 約束? そんなのしたっけ? したとして破ったっけ?
「『ワールド』です!」
「『ワールド』?」
「昨日帰る時にいっぱいお話しましょうって約束しました!」
「…………あー」
確かにそんなこと言ってたような……。
「それなのに全然返信がなくて……」
そういえばとあとで確認する予定だった四奈川からの『ワールド』を見てみる。
ほとんどが俺についての質問ばかりだが、なるほど……全部で三十件はあった。
いや、多過ぎじゃね?
すると直後に首元がひんやりとする。
「お嬢様を悲しませたら許しませんと申し上げましたよね?」
「こ、ここここれはでございますね! き、昨日は眠くてすぐに寝ちゃっただけで! だ、だだだだからゴメン四奈川!」
俺は葉牧にナイフらしき冷たいものを首に当てられながら必死に言い訳をした。
ていうかマジで仕事しろよ《自動回避》!?
「そ、そうだったんですか……良かったです。全然既読もされませんし、嫌われてしまったのかと思っちゃいました」
「い、いや俺がお前を嫌うなんてことはないから安心しろ!」
「ふぇ? そ、そうなんですか?」
「あったりまえだろ! 美少女は国の宝だぞ! そして俺は宝に目が無い男でもある! 故に宝である四奈川を俺は大事にする!」
「美少女……宝……えへへ」
先程まで不機嫌そうだった四奈川だが、今は緩んだ頬に両手を当ててモジモジとしている。
ホッと……これで許されたかと思いきや――チャキン。
「ひっ」
「……朝から発情するとは、
こえぇーよっ! ていうか睾丸言うなバカ! ちょっとドキッとしちまったじゃねえか!
「て、ていうか今日は何しに来たんだよ?」
すると葉牧はサッと俺から退き、定位置である四奈川の左斜め後ろへと移った。
「あ、そうでした! 有野さんっ、冒険しに行きましょう!」
「…………はい?」
いきなり何を言い出すんですかねこの子は。
傍にいる葉牧さんもこめかみを押さえているんだが。
「あのさ、冒険って……どゆこと?」
「冒険は冒険です! ダンジョンですよダンジョン! ダンジョンを探して攻略しちゃいましょう!」
あー確かコイツってば、こういうファンタジーな世界に憧れを持ってるとか言ってたっけ?
「いや、けどなぁ……危ないと思うぞ?」
「安心してください! お怪我をしても私なら治せますから!」
「だとしてもだ。ステータス持ち……いや、『持ち得る者』か。それってお前だけだろ? 冒険ってのは回復役だけで成り立つわけじゃねえぞ。攻撃はどうすんだよ攻撃は」
「大丈夫です!」
「大丈夫って……まさかお前、俺を盾にするつもりか? 俺を特攻させて自分だけ美味しいところを取るってのか?」
「そんなことしませんよぉっ!」
心外ですぅと、またも膨れっ面になる四奈川。やっぱりその顔カワイイわぁ。
「実はですね! こちらにいる乙女さんもステータスを持っていたのです!」
「へぇ、そうなんだぁ……って、はあぁぁぁ!?」
ギョッとして葉牧さんを凝視してしまう。
だが葉牧さんは毛虫でも見るような目つきをぶつけてくる。
「そんな下卑た目で見つめないでください。孕むじゃないですか」
「そんなんで孕むか!?」
「はら……む?」
どうやら四奈川は孕むという言葉の意味は知らないようで小首を傾げている。
「あの、はらむって何ですか?」
「ほら見ろ、アンタが変なこと言うから! どう説明するつもりだよ!」
「っ…………お、お嬢様、それよりもステータスについてお話をなさるのではなかったのですか?」
「あっ、そうでした!」
コイツ、露骨に話題を逸らしやがった!
「……まあいいや。えと……葉牧さんが『持ち得る者』だって?」
「そのホルダーというのは何でしょうか?」
「は? お前ニュース見てないのか?」
俺は起きてから見たニュースのことを伝えてやった。
「なるほど、そういう呼び名がついたんですね。分かりやすくて良いと思います! そうですね、私と乙女さんは『持ち得る者』です!」
俺はもう一度葉牧さんを見て「本当なのか?」と質問をした。
「ええ。本当は秘密にしておきたかったのですが、お嬢様がどうしても冒険に出たいと仰るので、仕方なく私も『持ち得る者』だと説明致しました」
仮に四奈川にステータスが無かったら、一生言うつもりなどなかったという。
何故ならそんなことを教えれば、きっと一緒にダンジョンに連れて行ってほしいとねだると分かっていたらしいから。
葉牧さんが傍にいてくれれば、きっと攻略できるってほどに彼女を信頼しているようだ。
しかし四奈川自身にもステータスは存在し、これで彼女が益々冒険に出やすい状況が整ってしまった。
そのため自分もまた『持ち得る者』だということを教えた方が都合が良いとのことで教えたという。
いやぁ、ていうか良いところのお嬢様が冒険に出掛けたいっていうのはどうなの? たとえステータスがあってもそこは止めろよ。
まあ止めたところで力を持っていることを知っている四奈川が止まるとは思えんが。それを知っているからこそ、せめて彼女の傍で最善のサポートをしようと葉牧さんは判断したのかもしれない。
俺だったらふんじばってでも家に縛り付けておくけどなぁ。
好奇心だけで行動すれば必ず危険に見舞われる。それは俺自身、すでに経験済みだし。
ただそれを言うとなれば、俺も『持ち得る者』だということを知らせることになる。
……どうすっかなぁ。
別に言ってもいいのかもしれないが、できれば他人に自分の能力は言いたくない。俺の能力は隠しておいた方が何かと便利だからだ。
……とりあえず今は、葉牧さんについて聞いてみるか。
「四奈川が大丈夫って言うんだから、葉牧さんは攻撃職ってことか?」
「はいっ! 驚かないでくださいね! 葉牧さんのジョブは何と――『雷臣』なんです!」
そう言って、紙に書かれた葉牧さんのステータスを見せてくれた。
葉牧 乙女 レベル:1 EXP:0% スキルポイント:0
体力:38/38 気力:27/27
攻撃:D+ 防御:D
特攻:C 特防:D
敏捷:C+ 運 :C
ジョブ:雷臣:Ⅰ コアポイント:0%
スキル:放雷Ⅰ・雷牙Ⅰ・迅雷Ⅰ
称号:雷神の眷属・暗殺メイド
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