第6話 新しいダンジョンの件について
SNSやネットニュースには次々と新たな情報が流れていた。
やはり早々とダンジョンに挑んだ者も出てきているが、そいつのメッセージの更新が途中で途絶えている。
最初は意気揚々といった感じで、モンスター画像をアップしたり、倒したところをネットに流していたのだが、パッタリと追加情報が止まった。
考えられるのはスマホを落としたか壊したか、電波の届かない場所に入ったか。
最悪……死んだということも考えられる。
ニュースではダンジョンに挑む危険性を口にし、絶対に早まったマネをしないように釘を刺していた。
どうやらダンジョンに挑んで大怪我を負ったりし、死傷者まで出ているとのこと。
まあ遅かれ早かれこうなることは目に見えていたが、考えもなしにダンジョンに挑むとかバカげている。
スキルがあるからって無敵というわけじゃないのにな。
どんな武器だって使いこなせないと意味がない。
きっと強いスキルやジョブで浮かれてしまった連中が痛い目に遭っているのだ。
「俺も気をつけなきゃな」
だが俺もダンジョンを見つけたい。挑むか挑まないかは別として、居場所さえ分かれば情報収集だってできるだろうから。
俺が自分の家に帰る道を歩いていると、一件の家から悲鳴とともに一組の夫婦が、赤子を抱きかかえながら走って出てきた。
「ど、どうかしたんすか?」
「わっ!? な、何だ人か……お、驚いたぁ……!」
赤ん坊を抱いている男の人が俺を見てギョッとしたようだが、誰がモンスターだ誰が。
しかしこの驚きよう……まさか。
「もしかして家に変な生物が出たり?」
「え? あ、ああ……よく分かったね。その通りなんだよ。一応ニュースでは見てたんだけど、まさか自分の家が実際にダンジョン化するなんてさ……」
「あーそれは災難でしたね。良かったらこの先の【花咲公園】に行ってみてはどうっすか? 結構な人が情報交換していますし、今はそこの方が安全っすよ」
「そ、そうかい? ありがとう、行ってみるよ」
夫婦に頭を下げられ、俺は「気にしないでください」と軽く返しておいた。
「フッフッフ、これはチャンスだな」
まさかこんな偶然が起こるとは嬉しい限りだ。
俺は夫婦の家の壁によじ登りながら、敷地内の様子を確認する。
庭にはモンスターの影はないが、そこから見える窓の向こうにはゴブリンの姿が確認できた。
やはり間違いなくダンジョン化しているみたいだ。
ならどこかにコアがあるはず。
俺は小石を拾うと、窓に向かって投げた。
コツンと音がすると同時に、当然のように徘徊しているゴブリンが気づいて窓の方へ歩いてくる。
その前に俺は《ステルス》を使用し、顔だけをわざと見つかるように出していた。
しかしまるで置物を見るかのように、ゴブリンは歯牙にもかけずに周りをキョロキョロとしている。
どうやらちゃんとモンスターにもスキルの効果は効いているようだ。
これならば上手くスキルを使えば、バレずにコアを探し出すことができるはず。
俺はまずステータスを確認する。
気力は何もしなければ、十分で十パーセントずつ回復していくのは分かっていた。
確認すると、あと一回分しか使えないことが判明する。
「これはちょっと危ない……か?」
俺はそれでもここにずっといる方が危ない人に認定されると思い、とりあえず敷地内に侵入して、玄関近くの外からは死角になっている壁際に背をつく。
ここならもし目の前からモンスターがやってきても、すぐに外へと逃げることもできる。
俺はそのまま建物の外観を確認しつつ、少し時間が経つのを待つ。
どうやらモンスターは、敷地とはいえ庭にはいない様子だ。
そうして十分以上が経過し、何とかギリギリ二回分使えるようになった。
あまりグズグズしていると、もしかしたら家の様子を見に住人たちが帰ってくる可能性もある。
俺は
幸い逃げる時に開けっ放しにされた玄関の扉の奥をそっと確認し、息を殺しながら靴のまま入る。
一瞬悪いなとは思いつつも、丁寧に靴を脱ぐことはできない。持ち歩くには面倒だし、逃げる際にわざわざ取りに戻るのも時間の無駄だ。
どうせ中には土足のモンスターばかりなのだろうから、あまり気にしないでくれるとありがたいと思いつつ歩を進めていく。
すると近くにあった扉が突然開き、思わず声が出そうになったが、俺は壁際に寄って息を止める。
部屋からゴブリンがのっそりと出てきて、廊下の壁にへばりついている俺の前をゆっくりと通っていく。
明らかに普通なら気づく距離だが……。
「ギギ? ギギギ……」
少しだけ何か感じた様子ではあったが、それでも俺を意識せずに、また別の部屋へと入っていく。
す、すげぇ……! このスキル、マジ最強じゃねえか?
何せ手を伸ばせば当たる距離に、人間に敵意しか持たないであろうモンスターがいたにもかかわらずスルーしたのだ。
――これならイケる!
俺は残りタイムをしっかりと認識しながら、とりあえず二階へと上がっていく。
何というか俺の家の時は二階にコアがあったので、ここも同じなのではという単純な考えで行動していた。
しかし階段を登り切ったところで、効果時間のタイムリミットが迫っていた。
幸い廊下にはモンスターはいないが、さっきのゴブリンみたいに出てくる可能性だってある。
どうする? 続けて使うか?
しかし最後のスキルだ。できればまずは安全に落ち着ける場所を見つける方を優先するべきか。
それともこのまま素早くコアを探すべきか。
見回せば二階には部屋数は三つある。
どれにもモンスターがいる危険も当然あるだろう。
あ、ヤバイ。そうこうしているうちに効果時間が切れた。
俺は全神経を聴力に集中させて、何か物音がしないか確認する。
下からは誰かが上がってくる様子はない。
ただこの階の部屋の中は分からない。
そもそもここの部屋のどれかにコアがあるという保証もないのだ。
俺は所持しているバットを持つ手に力が入るのを感じる。
ゆっくりと足音を立てずに一つの部屋の前に立ち、そっと扉に耳をつけた。
…………誰も、いない?
少なくとも歩き回っている音はしないが。
俺は意を決して扉を開く。
そして少し開いた扉から顔を覗かせる。
「「「「……ギ?」」」」
「……あ?」
ガッツリとゴブリンと目が合った。しかも五体もいますよ。
えーと、何で音が…………あーなるほどぉ。絨毯が敷いてあったのかぁ……。
……………ってマズイッ!
「ギギィッ!」
戦闘態勢に入り声を上げたゴブリンを見て、俺はすぐさま扉を閉めて《ステルス》を発動させる。
扉は即座に開き、というか粉々に砕かれた。
うっそぉ……そんな威力あんのかよぉっ!
俺はさっきと同じように壁にへばりついて息を潜める。
ゴブリンたちは、俺が下に逃げたと思ったのか、次々と階下へ降りていく。
ヤ、ヤベエ! このままじゃ逃げられねえ!
今階段はゴブリンたちでいっぱいだ。触れただけで効果が切れてしまうので、強行突破ができない。
早く階段から離れてくれっ!
しかしゴブリンたちは何をしているのか、階段で立ち止まってキョロキョロしている。
不意打ちでバットで殴り倒すか? いや、そもそも俺ってゴブリン倒せるのか?
5レベルだが、攻撃のランクが低いので倒せる自信がない。
そうこうしているうちに残り効果時間が三十秒を切る。
マズイってっ! どうする? どうする? どうするよ俺ぇっ!
しかしその時だ。
不意にゴブリンたちが出てきた部屋の中を見ると、その奥に浮かんだ光の玉を発見した。
「見つけたぁぁぁぁっ!」
俺はつい喜びで声を上げてしまった。
当然その声に気づいたであろうゴブリンたちが、また戻ってくる。
同時に他の部屋が開き、そこからもスライムやら見たこともないモンスターも出てきた。
「だぁくそっ! 俺のバカァッ!」
こうなったらと、俺はすぐに部屋の中へと駆け込み、バッドで光の玉――コアを叩く。
そこへやってきたゴブリンに背中を掴まれる。
「くっ、くっそ!」
だがその時、コアが割れて光の粒子となって消失する。
直後に、俺の背中を掴んでいたゴブリンもまた同様に霧のように姿が消えた。
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