第7話 新しいスキルを会得する件について

 目の前に嬉しい知らせが届く。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~」


 今までで一番長い溜息を吐いて、俺はそのまま尻餅をつく。

 かなりギリギリだった。

 ちょっと甘く見過ぎてしまっていたようだ。


「……今のは反省すべき点だな」


 もっといろいろ準備を万端にしてから臨むべきだった。

 恐らくこんな感じに大丈夫だろうとタカをくくって失敗した奴らも多いだろう。

 俺も危うくそんな連中と同じになるところだった。


「何はともあれ、とりあえず助かったな。まずは急いでここから出よう」


 俺は誰にも見られないように周りを警戒しながら、すでにダンジョンから普通の家にバージョンダウンした建物から出た。

 ある程度離れた場所に腰かけられる石垣があったので、その近くにあった自動販売機でドリンクを買ってから石垣に座る。


「んぐんぐんぐ……っぷはぁ~。あ~マジで今のはヤバかったなぁ」


 次、あんな状況に陥った時に何とかなる保証はない。というかほとんどの場合、あれはもうジ・エンドのフラグだろう。

 逃げ道は塞がれ、スキルの効果時間も回数も無い状況。

 これはもうゲームならリセットをする場面である。


「はは……俺もまだゲーム感覚だったのかもな」


 浮かれていたといってもいいかもしれない。 

 運の良いことにダンジョンが見つかり、コア撃破ボーナスが得られるかもしれないという利点しか見えてなかった。

 冷静に考えればたった二回しかスキルを使えない状況でダンジョンに入るべきじゃなかったのだ。


「ったく、俺のバカ野郎。もっと考えろマヌケめ」


 しかし今回のことが良い教訓になると思う。

 これからはもっと慎重に行動しよう。


「ま、とにかくステータスを確認しとくか」



 有野 六門   レベル:8   EXP:17%   スキルポイント:14


体力:26/41   気力:1/32

 攻撃:E+  防御:D

 特攻:D+  特防:E++ → D

 敏捷:C+  運 :D


ジョブ:回避術師(ユニーク):Ⅱ  コアポイント:37%

スキル:ステルスⅡ・スキルポイント上昇率UP


称号:ユニークジョブを有する者・コア破壊者




 どうやらパラメーターは、体力、気力、そして《特防》の三つがランクアップしたみたいだ。

 というよりもレベルが一気に三つも上がっていることに、今更ながら違和感を持つ。


 俺はモンスターを倒していないからだ。

 そういえば自分の家の時もそうだ。倒したのはスライムただ一匹だけ。

 なのにコアを破壊しただけで、大幅にレベルアップした。


「……今思い返せば、コアを破壊した瞬間にモンスターたちが消えたよな。あれって……」


 スライムを倒した時と同じ感じだった。


「……もしかしてコア撃破ボーナスって、ダンジョンに残ったすべてのモンスターを倒した経験値が入るってことか?」


 そう考えればこの莫大な経験値の入り方に納得がいく。


「だとするならわざわざモンスターを相手にしなくても、コアさえ破壊できれば大儲けってことだな」


 だとするなら益々俺の能力は使える。

 モンスターと戦闘せずに、コア探しを行えるのだから。

 しかもコアを破壊すれば、ダンジョン内のモンスターを倒した経験値が手に入る。これほど美味しいレベルアップの方法はない。

 まあその分、今回みたいな命がけになることもあるが。


「そういやスキルポイントも結構入ってたな。どうするか……」


 以前取得しておいた《スキルポイント上昇率UP》のお蔭で、たった三つレベルが上がっただけで結構ポイントが入っていた。やはり先に先行投資しておいて正解だった。

 俺は取得スキルの一覧を表示し、どれを選ぶか確認する。


「そうだなぁ。やっぱ《ステルス》をランクアップしとくか」


 消費ポイントは〝10〟も必要だが、俺の生命線のような能力でもあるので、これは優先的に上げていきたかった。

 というわけでランクアップさせて、残り4ポイントとなった。


 ちなみに《ステルスⅢ》になったお陰で、二分間に効果時間が増えた上、さらに隠密度も向上したようだ。しかもある程度、音を出したり行動を取ってもバレにくくなった。


「二分は大きいしな。あとはどうすっかなぁ」


 取れるスキルは幾つかある。

 四奈川のように気力回復系を取得した方が良いか、それとも……。


「ん? これ結構いいかもな。いきなり4ポイント全部使うことになるが」


 オレが注目したのは《自動回避Ⅰ》だった。

 文字を押して説明を広げてみる。



自動回避     消費気力:3


 自分に危険が迫った時にオートで発動するスキル。ただし敵意ある攻撃のみ。一度発動すると、十五秒のインターバルを必要とする。スキル所持者に不可能な動きを越えて発動することはない。ランクを上げることで、これらの制限は緩和する。



 これは不意打ちや騙し討ちに対応した便利なスキルだ。

 背後からの奇襲とか、漫画の主人公じゃないんだから気配で避けたりなんてできない。

 だからこの力は生存率を上げるためにもってこいだろう。


「だが敵意ある攻撃だけ、か。もし上から不意に植木鉢とか落ちてきても避けられないってわけか」


 それが意図して落とされたものならともかく、自然に落下したものなら反応しないということだ。

 あとは俺にとって不可能な動きで回避することはできないらしい。


 これは多分例を挙げるとすれば、突然目の前で爆弾が爆発したとする。普通なら絶対に無傷で終わらない。ほとんどは即死だろう。

 これを回避するとしたら、もうテレポートでもしなければ無理だ。それかマッハを越える速度で逃げ出すか。そんな速度なんて人間には出せない。だから不可能な回避はできない。


 ランクを上げることで能力が上昇するようなので、これも積極的に上げていきたい。


「よし、これでまた強く……違うな。回避力が上がったって言えばいいか」


 予期せぬダンジョンとの遭遇に死線をくぐったものの、その結果に満足して、今度こそ家に戻っていったのであった。





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