第4話 クラスメイトと出会う件について
「みなさーん! 少し聞いてくださーい!」
その時、いきなり大きな声を出した中年男性が皆の注目を浴びた。
「今新しい情報が入りました! まずは皆さん、〝ステータス〟と口にしてみてくださーい!」
なるほど。誰かがステータスの存在をあの男性に知らせ、それを皆にも知らせるべきだと判断したらしい。
「うわっ、何だこりゃ!?」
「何か出たぞ!」
「え? は? 画面?」
などと初めてステータスを見た俺みたいに驚き声を上げている人々。
「〝ステータス〟と言った直後、目の前に奇妙な画面が現れたでしょうか? まるでゲームのようなステータス画面ですが、文字を押すといろいろ説明が出てくるので、各々確認してみてください!」
その言葉に従って、恐る恐るではあるが、皆が自分のステータスを確認し始めていく。
しかし中にはこんな声も出てくる。
「何だよステータスって、何も出てこないんだけど?」
「俺も。いきなり何言ってんだあのオッサン」
「で、でもさっきから妙な動きをしてる人もいるわね」
とまあ、どうやらステータスを持っていない人もいるみたいだ。
これはどういうことだろうか。
ステータスを持つ者とそうでない者。
その差は一体何なのか……。
確認してみるが、年齢も性別もバラバラで統一性はない。
子供から老人に至るまで様々みたいだ。
「これはよくない傾向だな。そのうち差別が生まれるかも」
人は妬む生き物だ。より優秀な能力を持つ存在に対して嫉妬をする。
頭が良い者、運動ができる者、ルックスが良い者など、非凡な才は必ずそれを理不尽だと叩く者がいるのだ。
俺だって女にモテる男なんかすべて滅べばいいと思ってるしな。
そして今回のステータスに関しても、持つ者と持たざる者が出るなら、そこには埋められない溝が必ず生まれる。
中には選ばれた存在として、持たざる者を見下す輩も出てくるかもしれない。
神様よぉ、こんな大災害時にも差別をつけるなんて何考えてんだよ。
見れば先程大声を上げた男性が、持たざる者たちに詳しくステータスの説明をし始めていた。
「――あれ? もしかして有野さん……ですか?」
「…………」
「有野さん? あの、有野さんっ、聞いてますか!」
「んぁ? へ? あ、俺?」
あまり学校でも名前で呼ばれない(特に女子の声)ので、てっきり俺じゃないと思っていたが、肩をトントンとされたらさすがに自分だと分かる。
「…………
「ようやく気付いてくれましたね。一回で返事してほしいです」
そこにいたのは赤茶色の髪をふんわりボブショートにした女子だった。
名前は――四奈川
俺のクラスメイトで、男女ともに目を引くような美少女っぷりから学校のアイドル的存在として名を馳せている、俺とは立つ舞台の違うリア充である。
何故なら入学してからひっきりなしに告白されているらしいから。理想が高いのか、まったく受け入れることはなくフリーを貫いているようだが。
ああ、こんな美少女と付き合えたら最高なんだろうなぁ。
きっと誰に対しても自慢できる。
同じクラスだが、もちろん俺とは一切進展なんてない存在だ。
だからこそ、こんな高嶺の花をゲットできれば人生もらったもんだろう。
ああくそ、いずれこの美が誰とも知れぬ野郎に汚されるなんて……口惜しいぃぃ。
「…………もうっ、有野さんっ!」
「ひゃいっ!」
大声で名前を呼ばれ、反射的に変な声を出してしまった。
見れば四奈川が膨れっ面で俺を睨みつけている。
あ、顔近い。いい匂いだなぁ。……てか何で怒ってんだ?
「何度も呼んでるのに、無視は良くないと思います!」
「え? ……あーすまん」
どうやら思考にどっぷり浸かってしまっていたせいで、彼女の呼び声に気づいていなかったようだ。
「……四奈川、顔が赤いが風邪か? 大丈夫か?」
よく見れば少し頬が赤い。熱がこもっているみたいだ。
「だ、大丈夫です……ちょっと緊張してるだけで……ゴホゴホ」
「咳もしてんじゃねえか。どこかで休んだ方がいいんじゃ」
「ほ、本当に大丈夫です。いつものこと……なので。でも……やっぱり優しいんですね」
「へ?」
「あ、いいえ! 何でもありません!」
ニコッと笑みを浮かべる四奈川。その表情は無理をしていないように見えたので、本当に大丈夫そうだと判断した。
「四奈川も避難してたんだな」
「はい、ちょうど友達と一緒に駅前のデパートでショッピングしてまして。そんな時にこの騒ぎですから」
さすがはリア充。こんな休日も忙しくて何よりだ。
「その友達はどうしたんだよ?」
「ココに来ても家族が来ていないということで、家に戻っちゃいましたよ」
「お前の家族は放置してていいのか?」
「一応連絡は取れましたので」
そう言いながらスマホを見せてくる。なるほど、すでに安否の確認は取れているわけだ。
「そういう有野さんはお一人ですか?」
「俺は常に一人だよ」
「へ?」
あ、ちょっと哲学的な返しになったか?
今のセリフ、自分で言ってて少しカッコ良いとか思ったのは秘密だ。
「あー俺は両親が共働きの仕事人間でな。二人とも海外で活躍中。だから俺は家で一人暮らしを満喫してるってわけ」
「一人暮らしですかぁ、何だか羨ましいです。私はきっと両親が許してくれないですから」
実は彼女、有名な俳優とアイドルとの間に生まれた美のサラブレットだ。
父親は今も現役でドラマやCMなどで引っ張りだこ。
母親はさすがにアイドルは引退したものの、今は歌手としてこの時代にミリオンセラーを達成するほどの歌の女王である。
そんな両親だから、当然暮らしもセレブであり、噂ではメイドが十人は雇っている大きな屋敷に住んでいるらしい。
しかも一人娘ということで溺愛されているようで、きっと一人暮らしなんてさせたくないのだろう。
「そういえば有野さんはステータスありましたか?」
「ステータス? ああ…………無かったかな」
「そう、なんですか」
わざわざ他人に情報を教えても利益はなさそうなので嘘を吐かせてもらった。
「その反応、四奈川はステータスってのあったのか?」
「あ、はい。えっとですね、有野さんはゲームをなさいますか?」
「あ? まあ人並みには」
「それではその……お恥ずかしいことなんですけど、少し教えて頂きたいことがありまして」
何そのモジモジする仕草、めっちゃ可愛いんですけど?
ああ、何でも教えますとも。手取り足取り。何なら男と女の危険なアバンチュールも……っ!?
そこでハッとなって俺に向けられた鋭い視線に気づいた。
その視線を辿ってみると、明らかに場違いそうなメイド服を着た女性が、木の後ろから俺を睨みつけていた。
しかも何故かその手には小刀を持っている。
……あ、こりゃ下手なことできんわ。
恐らく、いやまず間違いないなく、あのメイドは四奈川の家の者だろう。隠れて護衛でもしているのかもしれない。
俺がついつい邪な妄想をしたことを目ざとく察知して、「おいこら、お嬢様に手を出したら分かってんだろうな、ああ?」という忠告をしてきたわけだ。その眼光と殺気で。
もし手を出しでもしたら、あの小刀で何をされるのだろうか……?
いやっ、考えたくない!
「あ、あの……有野さん?」
「へっ!? あ、え、えっと……な、何を聞きたいんですかお嬢様?」
「お、お嬢様!?」
「あ、いや悪い。ついノリで……」
「……ふふ、愉快な人なんですね、有野さんて。いつもは無口で人を寄せ付けない感じですが、こんなことならもっと早くに勇気を出してお話しておけば良かったです。覚えてますか? 実は私たち――」
「あー脱線しとるぞ。聞きたいことがあったんじゃねえのか?」
「あ、そうでした! えーとですね、その……スキルポイントというものがありまして……」
話を聞くところ、スキルポイントで他にどんなスキルを取得すればいいのか分からないのだという。
こういったゲームはあまりしないのでほとんど知識がないらしい。
一応表示される説明は読んで理解はしたつもりだが、やはりこういうことは慣れている人に尋ねた方が良いと判断して、知り合いを探していたのだという。
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