第3話 外の状況の件について
「もしもし、有野ですが」
「突然すみません。わたくし【
「あ、増山先生?」
「え? あ、もしかして有野か?」
「はい、そうっすよ」
「良かった。連絡がついたな。……事情は分かっているか?」
「まあ……ね。すげえことになったっすね、ははは」
「笑いごとではないわバカ者。とにかく連絡事項を伝えるぞ。学校はしばらく休校だ」
ああ、やっぱりそうなったか。
「それとお前は一人暮らしだったな。できるなら今すぐ避難場所へ向かい、そこで指示を仰いでもらいたいんだが」
「ていうか学校も避難場所に指定されてなかったでしたっけ?」
「…………」
「うわぁ、その沈黙怖いんすけど。まさか学校がダンジョン化してる……とか?」
「………………残念ながらな」
はい、アウト―。
まあこれで鬱陶しい授業も受けなくていいんだから大歓迎ではあるが。
「あーそりゃご愁傷様っす」
「嬉しそうに言うなバカ者が。とにかく俺は他の生徒にも連絡をする。お前も友人とかに……って、ぼっちだったなお前」
「言うなよ、悲しくなるだろ……」
好きでぼっちをやってるわけじゃねえ。ただ高一の時から誰も話しかけてくれないだけだ。
……あ、目から心の汗が出てきた……。
「と、とにかくそういうことだ! ああそうだ、スマホはちゃんと起動しているか?」
「ん? ちゃんと使えるっすよ」
「じゃあいつでも連絡できるようにしとけ。次からはスマホにかける」
「了解っす。あんたも大変っすね、教師」
「教師に向かってあんたって言うなバカ者。ではな、気をつけろよ」
プツリと音が途切れる。
増山先生は見た目ゴリラなのに体育教師じゃなくて音楽担当という笑いしか生まない不可思議存在だ。
規律には厳しく、破った者には然るべき罰をしっかりと与える別名『鬼ゴリラ』。
しかし生徒が困っていたら身体を張ってでも解決に心血を注ぎ込む熱血教師でもある。
暑苦しいので俺は苦手なタイプではあるが嫌いではない。
「増山も無事か。ちょっとホッとしたかな」
あんなんでもぼっちの俺をいつも気遣ってくれている教師の一人だ。だから安否は気になっていたが無事で良かった。
「にしても学校がまさかのダンジョン化……ねぇ」
規模がダンジョンのレベルに比例するとしたら、オレの家と比べて相当困難なダンジョンになっているのではないだろうか。
それこそ迷宮と化していたり、凶悪なモンスターや数え切れないくらい棲息するという恐ろしい現場に……。
「……まあレベル上げしたい奴らやバトルジャンキーな奴らにとっちゃ望むところってな感じだろうけどな」
わざわざ危険に身を晒すようなことを好む奴らの気が知れない。
「あーでも俺もレベルは上げたいんだよなぁ。できるだけ楽して」
戦うことになってもなるべく平和な感じで終わりたい。
「それにジョブランクを上げるにはコアの破壊は必須だしなぁ」
早くランクを上げてスキルポイントもゲットして《テレポート》が欲しい。これがあれば最強の回避術になってくれるだろうから。
だがさすがに学校規模のダンジョンに手を出すのは危な過ぎるような気がする。
できれば俺の家くらいのレベルがちょうどいいが……。
「んー何か情報がないもんか……」
俺はスマホを駆使して近場の情報を集めることにした。
しかしそう都合良くはいかないのか、すぐには実入りのある情報は手に入らない。
「とりあえず外を探索してみるか。《ステルス》の効果も確かめておきたいし」
一応ランクも上がったので説明を読んだら効果時間が一分三十秒と増えていた。
一体他の人たちに対して、どのくらいの効果を発揮するのか調べておく必要があったので、突然モンスターが出てきても攻撃手段として使えるようにバットだけは持って外に出る。
ここから三百メートルも歩けば駅があるので、人通りが多いであろう場所を目指して進む。
他人とすれ違わない。そろそろ夕方に差し迫る頃だが、こんなにも人気が少ないのは珍しい。
やはり他の人たちは家から出ないようにしているか、さっさと避難場所にでも行ったのかもしれない。
「あ、そっか。その避難場所に行きゃ、結構人がいるかもじゃねえか」
今更そんな単純なことに気づいて、俺は方向転換をした。
向かう先は【
大きな池や美しい緑に囲まれた住民に愛される憩いの場所だ。
トイレや雨宿りもできる休憩スペースなども設置されているので便利である。
周りには倒壊してくる高い建物もないし、植えられている木々もそれほど大きくないものばかりなので、地震などの災害時には活用される。
公園の入口に近づくとざわざわと話し声が聞こえてきた。
中に入らずに少し遠目から確認すると、結構多くの人たちが集まっているのが分かる。
俺は試しに《ステルスⅡ》を発動させてから、少し足早に公園へと入って行く。
しかし誰も俺が入ってきた様子に気づかずに、各々が話をしたり電話をかけたりと忙しそうだ。
一つ試しで一人の男性の隣に静かに立つ。
男性は腕時計を見ながら、若干イラついた様子で立ち尽くしていた。
しかし俺が隣に立っていることに気づいていない様子だ。
効果時間は三十秒を切り、俺はまだそのままで息を殺しながら看板の突っ立っている。
すると《ステルス》の効果時間が切れると、すぐにというわけではなかったが、不意に俺の気配を感じ取ったのか、何気なく隣をチラ見する男性。
「うわっ、な、何だよお前!」
「え? あーすみません、今何時ですか?」
「は? えっと……四時四十分だけど」
「ありがとうございまーす」
俺は礼を言ってその場を離れる。
そして一旦男性の視界から外れたのち、もう
……うわぁ、面白ぇ。マジで気づいてねえし。
二回目なのにもかかわらずに、男性はまた傍にいる俺の気配に感づいていない。
なるほど。これは結構強力かもな。
ここまで近づいた上、さらに二回目という警戒を強める行為でも効果は絶大だった。
もっと離れた場所なら、たとえ視界に入っていても意識することはできないかもしれない。
これなら十分に隠密活動がこなせる。
あとはモンスターにも試してみたいが、それはまたの機会にしよう。
俺は男性から離れると、ある人たちを探してみる。
それはステータスを表示させている連中だ。
恐らく中にはまだステータスの存在を知らない人たちもいるだろう。
それとこのステータスが地球人すべてに備わっているのかも分からない。
俺だけ……ということはないはずだ。そうでなければ『ユニークジョブ』なんて存在しないだろうし、示す必要性がない。
通常のジョブを有している奴だって必ずいるからこそのユニークなのだから。
そうして確認してみると、何人か顔を俯かせて空中にボタンでもあるかのように押す仕草をしている人たちがいた。
明らかにステータスを確認している仕草だ。
しかしどうやら他人のステータスを見ることはできないようだ。近づいていも、そこに浮かんでいるはずの画面が見えない。
う~ん、残念だったなこりゃ。俺の能力ならこっそり盗み見ることも可能だったのに。
そうやって情報を得られるのはかなりのアドバンテージだと思ったが、そう上手くはいかないようだ。
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