第2話 回避術師の件について


回避術師


 あらゆるジョブの中でも極めて稀少なユニークジョブであり、あなただけの唯一のジョブ。その能力は回避に特化している。回避の専門職と呼べるもの。ただまだ未知の部分が数多く、どのような潜在的能力を宿しているかは分からない。ランクを上げることにより、取得できるできるスキルや、スキルランクを上昇させることが可能。




 とまあ説明はされているが、正直よく分からん。


「とえあえず生存率が高そうなジョブで良かったけど」


 こう見えても足は速い方だし反射神経も良い。そういうところが評価された結果なのだろうか。

 ただできるならもっとカッコ良いジョブが……と思わないでもない。

 魔法剣士とか竜騎士とかカッコ良いよなぁ。

 主人公にありがちな能力だろう。


「まあ俺が主人公みたいな能力があるわけないか」


 ユニークジョブってところはちょっと嬉しかったりするけど、何だか字面的には『遊び人』とか『商人』とか、あまり戦闘によろしくない感じは否めない。

 いろいろ調べてみると、この〝Ⅰ → Ⅱ〟というのはランクアップしたということらしい。


 これが《ジョブランク》というものだ。


 そしてその下の《コアポイント》だが、これはEXPと同じような扱いである。ただ違うのは、モンスターを倒しても経験値は上昇しないということ。

 これはダンジョンコアを撃破して初めて経験値を得られるらしい。

 100%になるとランクが上がる。

 次にスキルだが、これがジョブよってそれぞれ行使できる能力のことだ。


「《ステルス》……か」



 ステルス    消費気力:3


気配を絶ち存在感を限りなく薄くすることができる。隠密行動には最適のスキル。効果時間は一分。ただし生物に触れるとすぐに解けてしまう。また声を発したり強い感情を露わにするなど、存在感を示すような行動も同様なので注意が必要になる。ただしランクを上げることで、これらの制限は緩和されていく。



 なるほど。これは使いようによっては強い武器になりそうだ。

 どんな感じが気になったので、とりあえず《ステルス》――と、行使する認識で声に出してみた。


「…………ん? 何か変わった?」


 自覚症状は一切ない。

 しかしステータスの気力を見ると、〝17〟にまで減っていたので、恐らくステルス中なのだろうが……。


「まあいいか。使えることは分かったしな。あとは……《スキルポイント》か」


 最後に残しておいたスキルポイントを押す。

 すると直後に大きな別画面が開く。

 そこにはずら~っとスキルの名前が縦に並んでおり、結構な数のスキルがあることが分かる。


 スキルの後ろには、それぞれポイントが付属され、このポイント数に応じて取得することが可能のようだ。

 ただ現在、スキルには白く発光しているものと、そうではないものがあった。

 どうやら発光しているものは、今すぐ取得できるものらしい。

 それ以外は、ポイントが足りないか、ランクが足りくて取得できない。


 また下の方には《??????》とされている欄が幾つかあり、ここは押してみてもウンともスンとも言わない。


 ……気になるじゃないか。


「うわ、この《ランクⅤ》の《テレポート》はマジで欲しいわぁ」


 きっと誰もが欲する能力の一つだろう。

 空を飛ぶ能力、時間を止める能力に並んで最強の力なはず。

 しかしその道のりは大分遠そうだ。

 何せランクもさることながら、消費ポイントが〝100〟なのだから。


「……でもこのスキルはなるべく早く取りたいしな。なら《スキルポイント上昇率UP》ってのは絶対か」


 俺はこのスキルを〝10〟も消費してゲットしておく。

 いきなり三分の二が消えるのは痛いが、これは先行投資になるはずだ。


「あと5ポイントかぁ……どれがいいか。……いや、《ステルス》のランクを上げておくか」


 どうも戦いに積極的なジョブじゃないので、できるだけ戦闘を回避できる能力を優先すべきだ。

 まあ痛いのとか怖いのとか嫌だしな。

 俺は楽をして生き延びたいし。戦いも不意打ちとかだまし討ちとか、できれば無傷で済ませたい。


 ということで3ポイントを使ってランクを上げた。

 しっかりと《ステルスⅡ》になっていることを確認して「よし」と声を上げる。


 次は10ポイント消費でランクアップらしいが、さすがに続けては無理だった。

 ただランクが上がったことで、スキルを使用する時の消費ポイントが〝3〟から〝5〟に上がっている。これは要注意事項として認識しておく。


「ん~他に生存率が上がりそうなやつは……いろいろあるけど、ポイントを溜めておくって手もあるか」


 今でも取得できるスキルがあるが、あまり幅広く手を広げても器用貧乏になりそうな感じが否めない。

 そうなるなら一つを極めていった方が良いし、ポイントを溜めて能力の強いスキルを取得した方が賢いような気がした。


「……溜めとくか」


 残り2ポイントは取っておくことにした。

 次にオレがするべきことは……。


「あ、親父たちに連絡しなきゃな」


 ということで電話をかける――――が、出ない。


 何度か試してみたが反応が返ってくることはなかった。

 出られない状況ということに、まさか……と嫌な予感が浮かぶが、あの両親が揃ってどうにかなるなんてまるで想像できない。

 たとえ目の前に神や悪魔が現れても、「仕事の邪魔!」とか言ってぶん殴りそうだし。

 とりあえず折り返しを期待してメールだけは送っておいた。


「さて……次は外の様子でも見るか」


 二階に上がって、窓から外の様子を確かめてみる。

 もし道に普通にモンスターが闊歩していたら大事だ。

 しかし幸いなことにそれはなさそうで、この都会の道路に関しては、見える範囲ではダンジョン化していないようだ。


 少なくとも〝まだ〟。


 だが俺の家のように、建物がダンジョン化してしまっているケースはあるだろう。

 それはここから見てもさすがに分からない。

 ダンジョン化していたら外見が変わるような分かりやすい変化があればいいのだが。


 耳を澄ませても悲鳴や叫び声は聞こえてこない。

 家にモンスターが出現したら、大慌てで家から出てくるか、叫び声を上げることもあるだろう。

 しかし十分以上観察していても何も変わらない平常運転だ。


「これは……運の悪いことに俺の家だけがダンジョン化したってパターンのやつかよ」


 まあお蔭でいろいろ理解できたこともあるので得られたものも大きいが。

 オレはいつもと変わらない街並みを見渡しながら考え込む。


 これから先、ダンジョン化していく頻度や場所も増えていくとしたら?


 そうなった場合、さすがに政府もその考えには至っているだろうし、今も解決策というか対応策を練っていることだろう。

 多くの者たちが恐怖に慄き、日々の生活を満足に送れなくなっていくかもしれない。

 だがそれに反して、この状況を楽しむ輩もまた出てくるはず。

 命がけではあるが、こんな世界を望む連中もまた世の中には絶対にいる。

 ましてレベルやスキルなんてのもあるんだ。


 鍛えていけば『俺tueee』ができるって思い込む奴もいるに違いない。

 極端なことをいえば、このファンタジーな能力で世界を支配しようと企んだり……。


「……って、さすがにそこまでぶっ飛んだ奴はいねえか。……多分」


 いや、世の中には元々ぶっ飛んだ思考の持ち主だっているから分からない。

 とにかく世界豹変は、まだ始まったばかりだ。

 これから荒れに荒れていくと思う。


「明日……学校なんだけどどうなるんだろうなぁ」


 ほぼ間違いなく休校になるだろうが、いまだにその連絡はない。

 まあ学校側もこんなこと初めてだろうし、対応に困っているのかもしれない。

 しかしこれは最早未曽有の大災害レベルだ。


 そのうち学校からも何らかの反応が……。


 そう思っていた矢先のことだ。家の電話が鳴り響いた。

 俺はもしかしたら両親かと思って受話器を手に取る。




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