第10話
「個性っていうのはわかるけど……京子ちゃんの個性ってなんになるの。こんな事務所みたいな部屋、なにもないのとおなじゃないのかな」
まりのの言葉にまたもや空気が凍りついた。はなとみかこは硬直してしまったが、京子はと言えば変わらず指を動かしてスマホを凝視しているままだった。とはいえ言ったまりのの方も背をむけたまま同じようにスマホを凝視している。ふたりとも手元しか見ないままでただ言葉だけが矢となり飛び交っている。
「みかこが言ってたでしょ。シンプルさの中に美しさがあるのよ」
「どうかな。少なくともかわいらしさはないと思うな」
「かわいらしさなんていらないのよ。そんなの浮かれた人間の欲するものだわ」
「それならシンプルさなんて大切なものを色々なくしちゃった、冷たい人間のものだと思うな。京子ちゃんにぴったりだよ」
「目的のために鋭く鍛えられているのよ」
「それならかわいらしいのはあたしの目的だもん」
「まりのの目的自体が浮かれてるんでしょ」
「京子ちゃんの目的だって冷たいんじゃないの」
ふたりとも手元のスマホばかりを見つめたまま言い合う。双方引く気もないらしい。すっかり昨日の続きみたいになってしまい、隅のはなとみかこはどうしていいかわからなくなってしまった。
それでも昨日とは違って面と向かって言い合う様子はなく、手をのばせば触れられるような距離でスマホばかりを見続け言い合っている。そのおかげか感情をむき出しにするようなことはなく、それだけが安心できる材料だった。
「冷たくてもいいわよ。必要なもののためになら大切なものだって切り捨てる強さが求められるのよ」
「かわりに京子ちゃんひとりっきりになっちゃうよ、きっと」
「まりのはたくさんの人に囲まれるといいわ。自分と同じ程度のね」
「じゃあ京子ちゃんはどれだけうまくいってもひとりっきりのままだね。誰とも一緒に喜び合ったりできないよ」
「そんなことないわ」
「あたしだってそんなことないもん」
どんどんエスカレートしていく。背をむけながらもばちばちと火花が散っているのが感じられた。
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