第9話

「そうじゃない。あんな部屋。ごちゃごちゃしてるだけでなにも出来ないわ」

 とうとう京子が口火を切るようなことを言った。なんとかしておだやかに普段通りの会話へと誘導したかったのに、このままでは昨日のままの言い合いになってしまう。あわてたようにみかこが口をはさんだ。

「そんなことないですわ。まりのさんの部屋も素敵なものだと思います」

 それを耳にしてまりのはちょっとうれしかったようだ。顔はスマホに固定されていたものの、頬だけがやわらかくゆるむ。はなはそれに気づき、これまたちょっと安心した。

「じゃあやっぱりまりのの部屋のほうがいいんじゃない」

「そ、それは……」

 どう答えようか困ったみかこは一瞬言葉を失ってしまったが、その間に京子はスマホを見たままに身体を傾けて背をむけそうになってしまった。こちらもあわててみかこが言葉を続ける。

「どちらも素敵なんですわ! まりのさんは自分の世界を築いてらして、京子さんはシンプルな中に美しさがあるんです。どちらがいいというものではありませんの」

 それを聞いたはなはその通り、と思い、胸の中で、みかこちゃんいいことを言った、と応援しもしたのだが、京子はそっぽむいたまま身体をむきなおしてはくれなかった。そのためみかこ共々軽く肩を落としてしまう。

「そうだよね。どっちがいいとか選べないよ。それぞれの部屋にそれぞれのいいところがあるんだと思う」

 だがなんとか会話をいい方向へ向けたくてはなも必死になって続けた。隣ではうんうんとみかこがうなづき同意してくれる。その同意は発言より自分の内心へ向けられたものだと勝手に受け取りはなは言い続けた。

「それにふたりともちゃんと自分の目的があって部屋を作ってるんだから尊敬しちゃうよ」

「そうですわよ! おふたりとも部屋が個性の表れになっていますわ。ですからお互い違っていても認め合えばいいと思うんですの」

 みかこも必死だ。何とか話を続けようとしていた。そしてこんどははなが強くうなづく。けれども京子もまりのもスマホから顔を上げようともしなかった。

「個性って大事だよねみかこちゃん」

「はい。個性って大事ですわはなさん」

 同じことを繰り返しながらもなんとか盛り立てようとするはなとみかこだった。

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