第8話

「そうかしら。はなみたいに家族多いと私も片づけきれないと思うし、急にひとりになってもどうしていいかわからないと思う。単にうちはお姉ちゃん独り立ちしたから、私ひとりで部屋を独占できたからだと思う」

 相変わらず手元を見たままだったが会話には参加してくれた。このまま続けられればいつも通りだと思い、さらに話しかける。

「でもわたしだったらだらけちゃうかもしれない。いつも弟たちのためにやってるから、ひとりだと逆になんのためにやるのかわからなくなる気がする」

 ふと本当に弟や両親たちと離れてひとりになったらどうやって過ごせばいいのか頭をよぎった。しかし想像もできない。生まれてほとんどを同じ環境で過ごしてきたので他の可能性というものが浮かんでこなかった。

「そういうものかしら」

「そうだと思う。京子ちゃんはしっかりしてるんだよ」

 なんとかまた返事を引き出せたのではなはほっとしていた。みかこも同じなのかして、心持気安く話を続ける。

「それに京子さんのお部屋はシンプルにまとまっていますわ。うちはたくさん物がありすぎて、どれがどれだかわからなくなってしまいますもの」

「でも物のあふれたまりのの部屋のほうがかわいくって好きなんでしょ」

 ピシッ、と場が凍りつく。せっかく会話を続け昨日の言い合いからそらしていったのに、話の流れをそちらに向かわせてしまった。みかこは申し訳なさそうにはなへと向き顔だけで謝っていた。はなはみかこが悪いわけではないと、こちらも顔だけで示そうとしていた。部屋の隅で顔だけがいそがしく変化していく。

 しばし顔だけで会話してしまったはなとみかこであったが、ふと気になってまりのの方を見た。京子の発言に気を悪くしてないか心配だった。

「それってあたしの部屋がごちゃごちゃしてるってこと?」

 するとまりのも会話に参加してきた。だがいつもと違って明るい声ではない。その声色にまりのの感情が知れるような気がしてまたもはなとみかこは顔を見合わせてしまう。今度はお互い同じ表情をしているだろうことがわかる。

 せっかく会話が成立し始めたというのに、むしろ昨日の様子のまま続けられそうで望んだ通りになりそうにない。部屋の隅からちゃぶ台にまで戻ることも出来ずにはなとみかこは困惑したまま座っているしかないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る