第5話
とはいえこのまま日が沈むまで黙ったままでいるわけにもいかない。はなはぐっとおなかに力を入れると、何気ない様子でそそそっと部屋の中央へと近寄っていった。最初座っていたちゃぶ台の前までくる。しかしそこまでが限度でどうしても声を出すことが出来ない。そのままじっとしてしまう。
(ど、どうしよう……)
本日何度目かのどうしようを心の中でつぶやきながら、顔を上げることのない二人を前にまたも硬直したままになってしまった。
そんなはなの内心の葛藤を知ってか知らずか、みかこもつられてすすすっと近寄ってきた。二人そろって並ぶ。少なくともいつも通りに四人がひとつのちゃぶ台を囲むこととなった。声を上げることも出来ないはなはちらちらとみかこの方を見ていたが、意外とみかこは本当に何事もない様子で自然と言葉を出した。
「今日のお茶うけはなんでしょう?」
一瞬場の空気が凍りつく、ような気がはなはした。しかしそれははな自身の心の緊張であったのかもしれず、京子はなんの気負いもなさそうに応える。
「どうせろくなもの出せないわよ」
目はスマホに落としたままだ。そしてみかこに応えただけで続けて何も言いそうな様子はない。そのまままた沈黙が続く。
みかこは泣きそうな顔をしてはなを見た。自然に何事もなかったように言った言葉も、相応に頑張って出したらしい。いつもの何事も気にしそうにないお嬢様マインドも、友達関係には機敏に感じ取るものがあるらしい。
はなも黙ってられないと思って自分に負けずに声を出した。
「な、なにもなくても落ち着くもんね」
「なにもない殺風景な部屋だからね」
玉砕する。にべもない返答に落ち込んでしまった。
うつむきそうになりながらも京子の様子をうかがうと身動き一つすることなくスマホをいじり続けていた。せっかく勇気を出して言ったものの状況は何も変わらない。まりのの方も見て見たがそちらもスマホを見たまま顔を上げることもなかった。
どうしていいかわからないはなは、いつの間にか距離を開けたくなって徐々に徐々にちゃぶ台から離れていった。そしていつの間にか先ほどまでいた部屋の隅にまで後退していた。そしてさらに気づくとみかこまでが同じように移動してきて、はなの隣に座っているのだった。
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