第4話

「そうですわっ! こちらから普段通りに接してみてはいかがでしょうか。京子さんとまりのさんで向き合ってるから昨日のことを思い出すんですわ。わたくしたちからいつも通りにお話してみれば、自然とお二方とも態度が変わるんじゃないでしょうか」

「あ、そっか。そうかも」

 そう思って京子とまりのを見る。むくれているくせに、距離は近い。お互いに相手のことを意識しているだろうことは遠巻きに見ていても理解できた。そしてそのためにこの緊張感が生まれているのだとすれば、ひきはがしていつも通りの関係を作り直せばいいことになる。

「みかこちゃん、それいい考えだと思う」

「そうでしょうか?」

 返事は嬉しそうに弾んだ。そして二人して京子とまりのを見る。変わらずスマホだけをいじっている。

「となるとどうやっていつも通りにさせるかだね」

「そうですわ」

 またじっと見る。手元ばかりへと視線を落とし、近くにいる相手を一顧だにしない。部屋に入ってからずっとそうだ。なかなかの難敵に思えた。

「……みかこちゃん話しかけてみたらどうかな」

「……はなさんからそうしたほうがいいんじゃないでしょうか」

 どちらも最初の一歩が踏み出せずまごまごしてしまう。しかしだからといって状況が動いてくれるわけでもない。カチカチとシンプルな壁掛け時計の刻む音だけが響き、じっとりと脂汗をかきながら身じろぎも出来ずにいる。やることは決まったものの動き出せずにいた。

 その間も京子とまりのはなにをすることもなく淡々とスマホをいじり続けていた。それを硬直したまま眺めるはなとみかこだったが、つい先に話しかけてほしくて肘でつつきあったりしてしまった。かといってどちらも動き出すことはなくこちらもじっとしている。狭い部屋の中で四人、なにもせずに座ったままでいる。

(ど、どうしましょう……)

(どうしようか……)

 結局最初のころと同じように目でお互いに様子を見あうしかないのだった。

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