5日目 京子の部屋

第1話

「…………」

「…………」

『…………』

 部屋に入っても沈黙を続ける京子とまりのを前に、はなとみかこも顔を見合わせて黙るしかなかった。ちらちら上目づかいで様子をうかがうも、それぞれスマホを手にして眺めているだけで顔を上げようともしない。自然はなとみかこも首を垂れたままお互いに目を合わすしかなかった。

(どうしましょう、はなさん……)

(どうしたらいいかな、みかこちゃん……)

 言葉には表さないが、目で言いたいことは容易に察っせられた。

 京子もまりのもずっとスマホを握ったまま親指だけ動かしている。せっかく京子の部屋に集まっているのにその甲斐もない。二人ともひとりの世界に没頭し、周りの友人の姿など気にもとめていないようだった。

 そんな二人を前に、じりじりと後退しながらはなとみかこは近づいていく。そそくさと気づかれないように部屋の隅へと移動し、お互いに聞き取れるほどの小さな声で言葉を交わした。

「なんだか空気重いですわ」

「うん。昨日のことまだ気にしてるのかな」

「どうしてでしょう……友情の証でしたのに……」

「そ、そうだったかな」

 みかこだけがそう思ってただけで、やっぱりただのけんかだったんじゃないかな、とはなは思ったが口にはしなかった。多分みかこには本当にそう思われたのだ。

 しかし普段じゃれあっているような京子とまりのも、行き過ぎると本当にへそを曲げてしまい、その前にさらされてしまう側にはたまったものではなかった。とにかく不機嫌そうな友人を前に困惑してしまう。いつも活気よく言い合いをしている間柄なだけに、ただなにも言わない時間が続くだけで耐えられない思いがした。

「どうしましょう」

「どうしたらいいかな」

 部屋の隅から、こっそりと京子とまりのを眺めるのだった。

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