第21話

「どうしてですのはなさん。あんなにまりのさん必死になって京子さんに伝えようとしていらっしゃるのに……」

「う、うん。そうかもね。うん」

 なんと言っていいかわからず、うなづくしかない。

「わたくし、みなさんとお友達になってよかったですわ。こんなにも相手のことを思いあっている関係、大人になってからでは築けないと思います」

「うーん、それはそうかもしれないけど……」

 大の大人が言い合っている姿は中々はなには想像できなかった。しかし、両親や祖母を思い浮かべるとないこともなさそうな気もした。しかしそれは家族の間でかもしれない。

「そうだね。きっと大人になるとここまで本気で言いあったりしないかもしれないね」

「そうですとも。それも相手を言い負かすためにやるのではありません、相手のことを思って言うのです。こんな素晴らしいいたわりの精神は打算に満ちた世界では不可能ですわ」

 なにやら理想があるのか、うっとりと宙を見てそう言っていた。同じようにはなも見上げてみたが、そこにはべたべたと貼られたピンク色のポスターがあるだけだった。

 その間にもまりのの京子への追及は続けられていたらしい。耳には猛々しい声が聞こえてくる。

「京子ちゃんの考えは結局相手のことを利用してるだけなんだよ。自分のことしか考えてないの。エゴイストなんだから!」

「そんなことないわよ! あ、相手のこと思ってるから言うんじゃない。自分勝手で言ってるんじゃないわ」

「でも相手のこと考えてないじゃない。自分の意見ばっかり押しつけて」

「それは間違ったこと言ってるから……」

「相手の間違いも受け入れられないんでしょ。うつわが小さいのよ、京子ちゃん。それじゃ大物になれないもんね」

「ぐ……そ、そんなことまりのに言われる筋合いないわよ!」

「ならわたしだって京子ちゃんに言われる筋合いないもん!」

 どう見ても罵り合いで、みかこの言っているような思いやりは感じられそうになかったが、しかしこちらの方が二人にはよく似合っていて、むしろ仲がいいのかもしれないとも思うのであった。

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