第16話
「そ、それは……」
ちょっとひるんだ京子へ、まりのは口を挟ます隙を与えず続ける。
「偉くなるにはきっと接待ゴルフだってあるんだよ。飲み会とかになったらお酌もしなくちゃいけないんだよ。新人の時には職場のお局さんと上手くやっていかなくちゃいけなくて、京子ちゃんのやらないような女子トークだって強要されるかもしれないんだよ」
「く、ぐぐっ……」
心底嫌そうに京子は顔をゆがめた。言ってるまりのも嫌そうだった。八百屋の娘のはなと大金持ちのみかこは全く他人事のように聞いていた。
「そ、それが嫌だから、絶対嫌だから、今勉強してるんじゃない!」
「わかってるよ! でもいくら京子ちゃんがかしこくてもいきなりは偉くなれないんだよ」
「そ、そうだけど……」
口惜しそうに唇をかむ。まりのも寄り添うと肩を抱いた。
「わかるよ。京子ちゃんが嫌な気持ち。でもきっと一度は通らなければいけない道なんだよ。それは京子ちゃんには苦手な世界かもしれないけど、わたしみたいに少しずつならしていかないと、そこで偉くなる道が途絶えちゃうかもしれないんだよ……?」
「まりの……」
見つめあう。サラリーマンと公務員の娘として、相通じるものがあるようだった。
「ごめんなさい。もしかしたらまりのの言う通りかもしれないわ。私、ちょっとかたくなに考えすぎていたのかもしれない」
「わかってくれたのね、京子ちゃん」
ひしと抱き合った。
どうやら安心して大丈夫そうなので、はなとみかこはおせんべいをいれた入れ物をもって二人の方へと戻ってきたのだった。
「なんだか今日はすごかったね、まりのちゃん。どうしちゃったの」
「なにが?」
はなの問いかけに、きょとんとして見返してきた。まん丸の大きな瞳がぱちくりと動く。
「いつもならもっと京子ちゃんに言い負かされてるのに……」
「え、そうかな。いつも京子ちゃんのほうがそんな感じするけど」
さっきと言ってることが違う、とはなは思ったが、それを聞いた京子はカチンと来たようだった。背後に黒いオーラが立ち上っているのが見える。
そそくさとはなはおせんべい入りの木の入れ物をもったまま後ろに退き、みかこもそれに続くのだった。
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