第12話

「大体ね、好きとか嫌いとかで結婚したりするから、結婚した後にメッキがはがれて離婚したりするんじゃないの。なら最初っから相手に変な期待なんてしないで結婚した方が長続きするのよ」

 まるで熟年夫婦の経験者のようなことを言うが、本人はいたって本気らしい。目がまっすぐしている。

「まりのみたいに好きな相手を求めてうろうろしてるほうが、いつまでたっても結婚できなくなったりするんだからね。よくあるでしょ、そういう話」

「ぐ……」

 それはまりのも思い当たることがあるのか、黙ってしまった。それに調子づき、さらに京子がたたみかける。

「そもそもね、好きとか嫌いとか、恋なんて言うのは幻想なのよ! 所詮精神の生み出したまやかし! ほんの一時は楽しいものとして身体中を駆け巡るかもしれないけど、それが過ぎれば目の前にいるのはただの他人なんだから。そんなものに期待してずっと追い求めてるなんて人生の浪費だわ」

「そんなことないよ!」

「いいえ、ある。

 じゃあまりのはなにかひとつの感情がずっと続いたことなんてあるの」

「あるよ! 多分……」

 ちょっと自信なさげだった。京子は同意しない。

「なら今までの彼氏とも別れなかったんじゃないの」

「うぐ……」

 それはさすがに言い返せないのか、口をパクパクさせるだけしかなかった。

 隣で静かに見ていたはなだったが、ちょいちょいとそでを引っぱられた。みかこが尋ねる。

「まりのさん、そんなに恋人の方と別れてらしたんですの?」

「さぁ、あたしはよく知らない。まりのちゃんの彼氏って見たこともないし……」

「なんでなんでしょう?」

「なんでだろ。内緒にしときたいのかな……」

「水臭いですわ」

 ぶぅ、と唇を尖らせる。なんだかそんな様子がおかしかった。

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