第8話

「だ、だけどね、まりの。人間の基礎っていうのは今からやっておかなくちゃいけないのよ。若い間にやったことだけが身につくってよく言うでしょ」

「そういえばおばあちゃんもそんなこと言ってた」

 ぱりぱり食べながらはなも同意する。

「そうですの。ご老人の知恵ですのね」

「たぶんそうだね。でもおばあちゃん今遊んでばかりいるけど……」

 どちらかといえばはなには、自分が遊ぶためのいいわけとしておばあちゃんが言っているように思える時もあった。

「ほら見なさい、はなもそういってるわ」

「おばあちゃんだよ、言ったの」

 しかし京子は聞いていない。まりのばかり見てる。仲良しだなぁ、とはなは思った。

「だから今こそやらなくちゃいけないことがあるの」

「なによ、先生みたいなこと言って! 優等生のそういうとこキライ」

 また頬をふくらませると顔をそむけた。今度は一矢むくえたような気がしたのか、京子の顔色に明るみがさす。

「でもそれなら京子ちゃんだって手遅れだね」

「なにがよ」

 ガリ勉で優等生の自負が鼻息を荒くさせた。

「だって今が基礎固めの時ならさ、京子ちゃん勉強はしてるけど、人を招き入れるような真似はわたしよりも遅れてることになるじゃない。あとで偉くなってからやろうと思ったってきっとおいつけないもん」

「なっ……」

 言われてまた言葉を失う。だが続けた。

「そんなことないわよ。これくらい簡単にできるわ」

「ううん、無理。だってわたし、この部屋作り上げるのに五年近くかかってるんだよ。それなのに京子ちゃんが偉くなった後にそれだけかけられる時間残ってるの」

「そ、それは……」

「もしそれができるっていうんならさ、わたしだって京子ちゃんがやってきたことを後でやったってできるわけじゃない?」

「それは無理よ!」

「でしょ?」

「ぐ……」

 言葉を出せなかった。

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