第16話
なんだかいつもの調子に戻ったので安心していたら、京子の視線がはなへと向いた。驚いて身をすくめていると指を突き付けられる。
「いい、だからね、はな。私は負けたわけじゃないんだから!」
「は?」
意味がわからず聞き返す。
「はなはね、自分ではわかってないかもしれないけど、私たちの欲しいものをもう持っているのよ。それはみかこだけじゃないの。はなもそうなのよ。
いい、温かくておだやかな家庭なんてね、もう幻想なの。サザエさんや野原家にしか存在しないのよ。そうした中で本当に結びつきの強い家庭なんかを築けてるはなみたいなのは少数派なの、恵まれてるのよ!」
「そ、そんなことないよ!」
声を上げる。いくらなんでもどこもかしこも荒廃した家庭が並んでいるとは思えない。
「京子ちゃんだってまりのちゃんだって、きっと家族のいいところあるに決まってるじゃない。それを見ないで人のよさそうな所だけ見て、自分んところはよくないって思ってるだけだよ」
「それこそ違うわ。私もまりのも、はなやみかこと決定的に違うことがあるの」
「なによ」
ちょっと威勢よく聞き返す。いつの間にか売り言葉に買い言葉みたいになってきた。
「簡単よ。私たちはね、両親と同じように生きようとしても出来ないってことよ。もう世の中はお父さんたちを受け入れてくれてたようには私たちを受け入れてくれないわ。でもみかこは当然としても、はなも八百屋だから両親が生きていったのと同じようにとりあえず生きていくことが許されているのよ。八百屋継げるじゃない」
再びびしぃっ、と指をさされた。その迫力にはなはちょっとたじろいだ。
「そ、それは……」
「そうでしょ? うちはサラリーマンだけど私も同じようにサラリーマン――正社員に雇ってもらえるとは限らないわ。もしここで私が大学失敗したりして、いい就職先が選べないような立場になったら一生派遣社員で終わるかもしれないじゃない」
「う……」
うめいたのははなではなくまりのだった。思い当たることがあるのか、こそこそ逃げようとする。
「まりの!」
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