第7話

「で、でも、家族なら二人ともいるじゃない。あたしだけが特別ってことないよ」

「そうですわ。わたくしだって一応両親はいますもの」

 しかし京子はちっちっちっ、と指をならしそのまま二人へと突き付けたのだった。

「いい、家族がいるかどうかの問題じゃないの。そうじゃなくてね、家族の持っている絆の密度の問題なのよ」

「どういうことですの……?」

 はなよりみかこが反応した。はなが口をはさむ前に京子が続ける。

「いい、みかこだって私たちだって家族がいるのは当然のことよ。だってお互い木の股から生まれたわけじゃないもの。でもね、だからといって両親や家族との仲がみな一様に同じってことはないの。それはわかるでしょ?」

「ええ」

「いやそうだけど――」

 はなを手でさえぎると、京子は滔々と続けた。

「そう、それはお金をみかこだろうと私たちだろうと誰でも持っていることと同じ。でもみかこが持っている量はとんでもなく多いのよ。私たちが一生かかったって手に入らないようなものだわ。それと同じで家族や家族の絆っていうものだって、誰もが持っていながらばらつきがあるのよ。みかこはお金持ちのお嬢さんだけど、かわりに両親がいそがしすぎて家族の絆は貧しいの。そして私たちはお金もなければ家族の絆も太くはないのよ。

 だけどはなは違う。はなはお金はないかもしれないけど、家族の絆はあふれんばかりにあるんだわ!」

「まぁ!」

 みかこは気に入ったのか、京子の述べ立てたことにいたく感銘を受けたようだった。そしてハンカチを取り出すと目の端をぬぐいながら言う。

「そうだったんですわね……気づきませんでしたわ。わたくし、お金持ちであったかもしれませんけど、家族の絆は貧しかったんですわね!」

「そうよみかこ。あなたはひとつのことで恵まれてるけど、別のことでは恵まれていなかったのよ」

「ありがとうございます、京子さん」

「ふふ、仕方ないわ。人間自分だけでは気付かないことってあるものですもの」

 なにやら変な共感が二人を結ぶ。

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