第2話
「そういえば弟さんたちはまだ帰ってらっしゃいませんの?」
「あぁ、多分遊びに行ってるんじゃないかな。友達の家にでも」
三人の弟の様子を思い浮かべる。みかこはがっかりしていた。
「そうですの……せっかくはなさんの団欒を窺えるかと思っていたのですけど……」
「別に見るほどのものでもないよ」
毎日のことなので特別面白いとも思えない。しかしみかこはこちらも本心からそう思っているようでさみしそうにうつむいていた。
「……そんなことありませんわ。こんな家族一丸で仲良くされている姿なんて、今時見れるものではありませんもの」
「そ、そんなこともないと思うけど……」
さすがにそれは偏見のような気もするが、けれどもみかこは力強く言う。
「いいえ、この現代という砂漠の中で人々は家族の団欒、はては人と人とのつながりを忘れてしまっているのです。みな自分のことばかりで手一杯。そうした中ではたとえ家族といえども助け合う関係になどならないのですわ。自分ひとり上手くいけばそれで事足れりとし、まわりに上手くいったものがいれば頼ったままぶら下がり、しまいには食いつぶした挙句違う人へと乗り移る始末……こうした時代にはなさんみたいな温かい家庭を築いて維持していけるなんて、奇跡みたいなものですわ!」
鼻息荒く滔々と語った。あまりの語りっぷりにはなは身を引く。ちょっとおびえながら訪ねる。
「み、みかこちゃん、なにかあったの……」
「いえ、ただ思ったことを述べたままですわ」
きょとんと平気な顔をして向きなおる。その表情を見てほっとした。この調子で続けられてはどう応対していいか困ってしまう。
「でもいつも京子ちゃんもまりのちゃんも言っているように、みかこちゃんのほうがうらやましがられると思うよ。うちなんて普通の八百屋だもん」
「ですが、ほとんどお父さまやお母さまと会える機会がありませんのよ。いつも世界中飛び回っていますから……」
「あ、そっか」
それはそれでたしかに人のことをうらやましがる理由になるのかもしれない。いくら人より多くのものを持っていようとも、足りないものは足りない。
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