3日目 はなの部屋
第1話
「やっぱり楽しいですわ!」
「そう……?」
一人にこにこと喜んでいるみかこをよそに、迎え入れたはなはどう応じていいか困惑していた。いつも毎日帰っている我が家。ほめられて嫌な気はしないが、興味をひかれる点もよくわからない。
それはまりのも京子も同じなのかして、とりたてて関心もなくちゃぶ台の前に座っていた。
「はなちゃんちも部屋の中はあんまかわんないね」
「でも一軒家よ。うらやましいわ」
などと言いつつ手元のスマホを覗いている。
お茶菓子のかわりに適当に切ったきゅうりを並べていたが、誰も手に取ろうとしない。仕方ないので持ってきた本人が率先して口にはこぶ。
「そりゃうちだってお店やってるから一軒家なだけだもん。一階は全部店だし、なんならまりのちゃんや京子ちゃんの家よりも狭いよ。住んでるとこ」
ぽりぽりかじる。二人は小さな画面から目を離さない。
「そうはいうけど持ち家じゃない。うちはいつ追い出されるかわからないわ」
「そうだよ。家があるっていうのはいいことなんだよ。年取ったって追い出されないんだから」
別にマンションや団地だからって追い出されはしないだろうと思ったが、多分ちゃんと意図があってしゃべってるんじゃないだろうとも思った。のでなにも言わない。
「そんなことありませんわよ!」
みかこが口を開く。心底楽しそうにわくわくした表情をしている。
「はなさんのおうちが一番楽しいですわよ。だってお店とお住まいが一緒になってるんですのよ? ちょっと階段を下りたら別世界じゃありませんか。ほんの小さなおうちの中に全然違う世界が同居してるんですから、こんな素敵なことはありませんわ!」
あの豪邸を思い出すとなんだかあてこすられているような気にもなってくる。しかしみかこ自身本当にそう思っているのが感じ取られるのでこちらも黙っていた。
「ありがと、みかこちゃん」
「そんなことありませんわ!」
一応お礼は言っておく。
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