第19話

「そしたら代わりに弟たちと一緒にすごせないじゃない」

 考えてみれば家族一緒に仲良くしてられるのも、狭い八百屋の一軒家だからかもしれない。家も店も一体だから出ても帰っても仕事してもくつろいでても、全部一緒に味わえる。そう思いなおしてみれば、はなにはあまり大きな家も必要ないようにも感じられた。

 しかし京子とまりのはそうは思わないらしい。

「そんなことないわよ! 絶対、広い家のほうがいいわ」

「そうそう! はなちゃんはなんだかんだいっても一軒家に住んでるからそんなこといえるんだよ」

 鼻息荒く迫ってくる。あまり近寄られないように壁を作りながらも反論した。

「だけどうちの方が家族多いからみんなより狭いよ。しかも一階なんて全部店だよ。マンションみたいに静かじゃないよ。全部の音が聞こえてくるんだよ」

『う……』

 はなの立場を想像できないマンションっ子の核家族世帯のふたりは言葉につまってしまった。しかしみかこは納得いったのかして強くうなづいていた。

「そうですわ、そうですもの。はなさんのおっしゃる通り。やっぱり家族は肩寄せ合って暮らすのが一番ですわ」

「…………」

 同意してくれるのはいいのだが、他のふたりと同じくなんとなく納得はいかないはなであった。

「そりゃうちは狭いからね……」

「狭くても、みなさんの心は結びつきあっているじゃないですか!」

 なんだか単にそう思いたいんだけじゃないかと疑えてきた。けれど、それは京子もまりのも同じな気もする。

 ため息をつきながらはなはまとめるように言った。

「ともかく、みんなそれぞれにいいことや欲しいものがあって、人のものがよく見えるってことだよね」

「そんなことないわ」

「そんなことないよ」

「そんなことありませんわ」

 だが誰も同意してくれなかった。

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