第17話

 珍しくまりのの方が優勢なのを見ながら、はなは先ほどの揺れでカップが傷ついてないか目線だけで確かめた。どうやら四つとも無事らしい。安心してタキシード姿の老人へと向き、真面目な顔をしてうなづいた。老人も微笑んだままにうなづいてくれた。

「でもさ、みかこちゃんも物がいっぱいあっても、おばあちゃんからもらったものとか他にないの? 別に思い出の物じゃなくてもみかこちゃんならありそうだけど」

 言われてみかこも目をしばたたかせた。

「ありますわよ」

「え、あるんだ」

 こんなに人の思い出の物にこだわるのだから、てっきりないのかと思っていた。

「あそこにあるくまさんなんて、わたくしがちっちゃいころにもらったものですわ」

 指さすと、ベッドの方に今の自分たちの背丈よりもまだ大きそうなくまさんのぬいぐるみが鎮座していた。両足を投げ出している。

「みかこちゃんもぬいぐるみもらってるんじゃない」

「そうですわ。でもあっちにもあるんですのよ?」

 そういって次に指したのは勉強机と思しき上だった。手ごろなサイズのくまさんが座っている。しかし目を引いたのは机の方で、これまた金と銀に彩られた細かな彫り物がされており、蝶と花が合わさった柄で博物館で見そうな代物だった。

「それだけじゃなくてあちらにも」

「いや、その前になにあの机?」

 しかしはなの疑問は放っておかれて、また別に指した先には花束が活けられた極彩色の花瓶の前で、親指ほどの大きさのくまさんの群れがいた。

「あんなにいっぱいあってはどれがどれだかわからなくなるんですの」

「っていうよりも、なにあの花瓶」

 くまさんより目を引くのだが、しかしくまさんの方もすごかった。茶黒黄緑赤青と色彩豊かで、籠いっぱいに入れられそうな量が前後左右上下と思い思いに向きながら山となっている。くま捨て山のようにも思えた。

「おばあさまにはもういいんですのよ、っていってあるはずなんですけど、いつまでたっても頭の中ではわたくしはちっちゃい姿のままらしくずっとくまさんばかりを贈ってくるんですの……」

 はぁ、とため息をついて心底困った様子だった。

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