第10話
「え?」
いきなり話をふられてどうしていいかわからない。目をぱちくりさせる。
「だって物があふれていようと足りなかろうと、その人にとって大切な物はその人にとっての物ですもの。ですから物のあるなしは関係ありませんわ」
きらきらと瞳を輝かせている。まだどうしていいかわからないはなは目をきょろきょろと動かして、視線を京子とまりのへと向けてみたが険しい表情で見返されるだけだった。いつの間にか境界線が引かれている。
(ど、どうしよう……)
はなはしばし逡巡したが、
「どっちも大切じゃないかな」
玉虫色の解答に終えたのだった。
みかこはあからさまにがっかりしたようで、腕をだらんと伸ばしてうつむいてしまった。
「ふふ、いい、みかこ。私たちはあなたのようなお金持ちじゃないから同じようには思えないのよ。足りないものが多すぎるの、私たちは」
「そうだよみかこちゃん。たしかにわたしもおばあちゃんからもらったぬいぐるみは大切だけど、みかこちゃんちにあるようなカップもテーブルもこの広い空間も欲しいの」
ずいぶんと素直に欲望を述べた。いつの間にか自分までその中に入れられてそうなので、慌ててはなは否定する。
「べ、べつにあたしはみかこちゃんみたいな暮らししたいわけじゃないよ。八百屋が続けられればそれでいいもん」
「そんなことないわ」
「そんなことないもん」
即座に二人から言い返された。目を大きく見開き迫力があり、つい続けて言い返すことが出来ない。
「いい、はな。私たちみたいなこれといった特徴のない人間はね、みかこみたいなお金持ちになることを夢見て生きているの。今のままでいいなんて、誰も思わないのよ」
「そうだよ。はなちゃんは八百屋さん継げるからいいかもしれないなんて思うかもしれないけど、八百屋さんだっていつまで続けられるかわからないんだから。手に入れえておかなければならないものは、手に入れておかないといけないんだよ」
瞳が爛々と輝いていた。
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