第9話

「どうしたんですの京子さん」

 手を握り合ったままきょとんとしてみかこが聞く。しかし京子は反発したまま声を上げた。

「だまされないわよみかこ。それはね、あなたがお金持ちだからそんなことがいえるの。私たちはね、一生こんなカップを持った生活をすることが出来ないのよ。それを物の値段より思い出が大切、なんて、それはお金持ちの身勝手な発想よ。もうすでに持ってるから手に入らないようなものだけがよく見えるの。それが思い出だわ。

 まりの! あなたも目を覚ましなさい! あなたはたしかにおばあちゃんのぬいぐるみが大切かもしれないけど、このカップひとつ買うことが出来るの。それどころか身の回りをそうした物で固めるようなことが出来るの⁉」

「うっ……」

 今度は京子の言葉に共感したようだ。手を握ったままに京子を凝視する。しかしみかこはみかこで切なそうな瞳をまりのに向け、きゅっと手に力を入れた。

「ううっ……」

「…………」

「…………」

 みかこと京子がまりのを見る。その三人をはなが見る。こっちまで黙ってしまった。

「ご、ごめんみかこちゃん。京子ちゃんの言う通りだわ!」

 パン、と手を払いのけた。そのまま京子へと近づく。

「京子ちゃん、わたし間違ってた。みかこちゃんみたいなことは、いろいろ手に入った人間がいえることだったんだね」

「そうよ、まりの。大切な物なんてね、必要なものがそろってからいえるの。私たちは必要なものから手に入れていかないといけないのよ」

 そしてふたりは抱き合う。またもおいてきぼりのはなはどうしていいかわからず見ているばかりだった。

 しかし今度はみかこも不満そうで納得する様子はないようだった。はねのけられた手をさすりながらも、はなのそばに近寄ると声を上げる。

「そんなことないと思いますわ。たとえ必要なものを持っていようと持っていまいと、その人にとって大切な物は必ずあるはずですもの。

 ねぇ、はなさん?」

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