第8話

 思わずその場にいた者全員ぽかんとしてしまった。

「な、なに……この反応」

 当人は不服そうに唇を尖らせた。あわててはながとりなす。

「ううん。ちょっと意外、っていうか、思ったよりかわいらしいものだったから」

 さっきまで物の値段についてああだこうだといっていたとは思えない。誰にでもあり得そうな、素朴なものをあげたので落差を感じたのだった。

「そうかな……」

「すばらしいですわ!」

 まだ不服そうだったまりのを押しのけてみかこが声を上げる。

「そうしたものですのよ、わたくしのいいたかったことは。だって物なんてどこかで買えばそれまでですもの。わたくしが持っていようと、はなさんやまりのさんが持っていようとどちらでも同じことですわ。でも、まりのさんのぬいぐるみはまちがいなくまりのさんのぬいぐるみではありませんか。それはたとえ同じものが他にあっても違うものなのです。だっておばあさまとの思い出がそこにつまっているんですもの! それこそ唯一無二の大切な物ですわ!」

 熱心に言う。はなはちょっとひいてしまったが、まりのは感化されたようだった。

「そうだよね! みかこちゃんいいこと言う! わたしもそう思うの。物の値段なんて関係ないよね、やっぱり思い出だよね。それだけが大切だよね!」

 さっきまでやかましく値段のこと言っていたのに忘れてしまったらしい。はなはこちらもちょっとひいてしまった。

「そうですわ。物はどうせお金で買えるのです。でも、思い出は買うことは出来ませんもの。誰もが手に入らない、自分だけの宝物。それこそが思い出ですわ」

「うん!」

 すっかり意気投合し手をとりあう。はなはまたおいてきぼりを食らってしまったような気がして少しさみしかった。

 しかし取り残されていたのはもうひとりいた。

 京子はがばっと身体を起こすと猛々しく声を張る。

「なに言ってるのまりの。大切な物だけじゃなにも手に入らないのよ!」

 びしぃっ、と指を突き付けた。ふたりは手をとりあったままきょとんとして京子を見上げる。

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