第6話

「もう、まりのさんも京子さんも物の値段を気にしてばかりですわ。そんなことより大切な品かどうかのほうが重要じゃありませんの。みなさんだってそうした物ありますでしょ」

 ちょっと口を尖らせる。それはさすがに思い当たるものがあるのかしてふたりとも黙った。

「じゃあさ、みかこちゃんは大切な物ってなんなの。あのベッド?」

 はなが尋ねる。するとみかこも悩みだす。

「そうですわね……いわれてみたらなんでしょうか」

 腕を組む。うーんと首をかしげる。しばし時間がすぎ、三人が注視する。

「あらやだ、そんなに見つめられては恥ずかしいですわ」

 ぽっと顔を赤らめる。頬に手を添えて恥じらった。それを見て一同はずっこけた。

 かちゃんとカップがかち合う。

「きゃあぁっ、き、傷ついてないわよね⁉」

「や、やめてよ京子ちゃん! わたし弁償できないよ⁉」

 またも慌ててカップを嘗め回すように見る。どこも異常なさそうだった。

「もう、おふたりとも気にしすぎですわ。はなさんをみならってください。ちっとも動じてないじゃありませんか」

 胸を張ってはなを指す。しかしはなとて尋常ではなかった。

「ううん。あたしも心配した」

 ちょっと涙目だった。このカップひとつでキャベツ何個分だろうかと思うと切なくなる。

「はなさんまで……」

「そうだけど、やっぱり高いものは怖いもん。弁償しなくてもよくたってさ、もし自分ちだったらどうしようって思うよ」

「そうですの……?」

 みかこは納得いかない様子だった。身の回りに高級品があって当たり前ではわからないのかもしれない。

「そうだよ。だって多分うちにある物で一番高いものでも、もしかしたらそこらへんにあるもんのほうが高いかもしれないんだから」

「そんなものでしょうか……」

 今だ納得いっていないようでずっと首をかしげている。とりあえず話してもわかってもらえそうにないのではなはこれで話を切りあげたかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る