第3話

 みかこも落ち着いたのか一緒になって紅茶を口に含む。

 はなも一緒になって飲んでいたのだが、ふと気になったことを口にしてしまった。

「このカップ高そうだね」

 反応したのは持ち主ではなく、またも京子とまりのだった。ぴたり動きが止まる。そしてふたりして手にしたカップをじっと凝視しだす。

「よく知りませんわ。普段使っているものの一つですし、どんなものを使うのかは厨房の者たちにまかせていますから」

 当人は気楽なものだ。ちょっと気になりはなはタキシードの老人へと目を向けてみたが、穏やかに微笑み返されるだけだった。仕方なく凝視しているふたりへを目をむける。固まっている。

「言われてみれば……これ、欠けさせたりしたらどうなるのかしら」

「こわいこといわないでよ京子ちゃん……」

 今度は指先が震えだす。しばし見ていると紅茶の表面が波立ってきた。

「そんなこと気になさらないで結構ですわ。いくらでもありますし、割ってもどなたかが贈ってくださいますもの。むしろあまりすぎているくらいですから、少しくらい割れてしまったほうが整理がついてきっと喜ばれますわよ」

 のほほんと言う。しかし金額が勝手に頭に浮かぶのか、京子もまりのも平静さを失っていた。

「うちのお給料でまかなえるのかしら……」

「京子ちゃんちボーナス出るからいいでしょ。うち公務員だよ……」

 公務員だからってボーナス出ないのかな、とはなは不思議に思いもしたが、どっちにしろその日の売り上げで生活が決まる八百屋とは事情が異なるだろうから口を挟まないことにした。

 ふたりはじっとカップを見たままでいたが、そんな様子を取り払おうとみかこがつとめて明るくふるまう。

「そんなこと気になさらなくったっていいんですのよ。それにカップなんて高いといってもたかが知れていますわ。高価なものはもっと他にありますから」

 それを聞いてより二人の顔はこわばった。あわてて周囲を見回す。どれもこれもそれもあれもみな高そうに思えてくる。ひぃ、と小さく悲鳴を上げる。

 みかこの言葉は逆効果でしかなかった。

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