第2話
「そんな自分のお住まいのことを卑下するようなものじゃありませんわ。いうじゃありませんか、住めば都だって」
『悪かったわね!』
まったく慰めになっていない。京子とまりのはむしろ怒りの火に油を注がれた。
「そりゃあみかこはいいわよ。たしかにここは都よ。ならなに、私たちの家は村? 集落? なんだっていうのよ!」
「そうだよ。この部屋だけでもうちの団地一棟分住めそうじゃない!」
騒ぐ二人をわき目に、はなはじっとタキシードを着た老人を注視していた。こちらがなにを言うまでもなくすでに動いており、手袋をされた手の上にお盆をもってやってくる。
「そんなこと関係ありませんわ。だって住めば都なんですもの。どこだって都ですのよ?」
当たり前のことを噛んで含めるようにして言うみかこに、さらに二人は反発する。
「そうよ、そんなことわかってるってば! だけど、それはみかこが都に住んでるから言えるの。私たちはこの部屋からしたらバラック小屋よ」
「そうだよ。お城とスラムくらいちがいがあるもん!」
老人はテーブルの上にカップを置くと静かにお茶を入れ始めた。それぞれに配る。そしてあいた真ん中にこれまた豪勢な飾りのついたお椀の上に入っているフルーツを置いた。早速はなはフォークで小さく切り分けられたパイナップルを口にする。おいしい。
「まぁ……まりのさん、失礼ですわよ。世の中には本当に困った環境で暮らしている方々が大勢いるというのに、まりのさんたちのような恵まれた環境で暮らしながらそんなこと言うのは失礼ですわ」
「ぐ……」
世界で人脈を持つみかこにいきなり正論を言われて二の句が継げない。黙ってしまうまりのは助けを求めて京子を見たが、こちらも分が悪いと思ったのかさっさとはなと一緒にフォークでりんごをつついていた。
「ちょ、ちょっと京子ちゃんずるい!」
「なにいってるの、まりの。せっかくみかこの家で出してもらえたんですもの、ご相伴にあずからないでどうするの」
言って口に含む。しゃりしゃりした音が漏れた。
「ひ、ひどぉい! さっきまで仲間だったのに!」
「なんのことかしら」
さすがにばつが悪いのか、目が泳いでいる。
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