第19話

「それなら別に言い合わなくったってよくない?」

 素朴な疑問を投げかけてみたが、ふたりはこちらをむくと不思議そうな顔をして尋ねなおした。

「どうしてよ。別にいいじゃない」

「そうだよ。別にいいよ」

「…………」

 何と言っていいかわからずはなは沈黙してしまった。

 だがその沈黙が矛先をこちらへと向けさせてしまう。

「はなちゃんはどっちが正しいと思うの。わたし、それとも京子ちゃん」

「え」

 どっちでもいい質問をされてしまい言葉を失う。数秒考えて、正直に答えた。

「どっちでもいいと思う」

『それじゃだめ』

 変なところで息が合う。そして逃がす様子もなく左右に近づいてきた。京子とまりのに挟まれる。

「だいたいはなちゃんだってみかこちゃんとそう変わりないんだからね。家のこと継げばいいなんて、そんな楽なことないんだから」

「そうよ。今のご時世どこへ行ったって不景気なんだから、地域の皆様に愛されている八百屋なんていい物件にあぐらをかいているなんてぜいたくよ」

「そんなことないよ」

 家での両親の苦労と愚痴を思うと同意するわけにはいかなかった。

「今時八百屋に買いに来てくれる人だってお年寄りばっかりなんだから。あたしが八百屋継いだころにはお客さんいなくなってるかもしれないじゃない。自営業だって大変なんだからね。ふたりともそんなこと考えてないから勝手なこと言えるんだよ」

「それでも自分ちだからいいじゃない! わたしなんか下手したらそんなお店に一生雇われて終わるかもしれないんだよ」

「そうよ。それに自営業って言ったって、大企業以外はみんな同じよ。どちらにしろそうしたところに勤めないといけないんだから、経営権もってるはなのほうが恵まれてるのよ」

 やっかみで言い募られてしまった。なんだか生まれた家のことでこんなに言われるのは不愉快だった。

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