小学生と中二病(その2)

「キラアー、フッフッフッ」

「モンスターだ!」


 食料を求めて、森をさまよう俺たち。

 そんな俺たちの前に現れたのは、赤くてまるまるしたモンスターだった。

 フッフッフッと不敵に笑い、鋭い槍を俺たちに向ける。


「「「ああっ……で、でた……」」」


 奴の出現で俺たちは、ブルブルと震えた。


「フッフッフッ」


 ガサガサッ。


「――!」


 さらに二体。

 同じモンスターが草むらから現れる。

 震える俺たちを襲おうと近づいてくる。

 ゴクリ。奴らの増援に俺はツバを飲む。


「ふっ、ふえた……トマトが……ジュルリ」

「ちょうど、三人分ですね……」

「それに大きいわ。……はぁはぁ」

「――!?」


 俺たちの様子を見て、奴らは気づいた。

 モンスターの出現に怖がっていたのではなく、歓喜していたことに。 


「ラキ。頼んだぞ!」

「まかせてください!」


 ラキは、そう言って大剣デュランダルを振り上げた。


 森に行く道中。

 聖剣デュランダルについてラキから色々聞いた。

 転生の特典で女神から貰ったとかで、ものすごい威力らしい。


 そこで思いついたのがこの計画だ。

 モンスターだって色々いるんだ。

 食えそうな奴だっているはず。

 食えそうな奴が出たら、ラキに倒してもらって食べる。

 食えそうになかったら逃げるつもりだったが、まさか一発目からアタリが引けるなんて。

 やっと俺たちにも運がめぐってきた!


 身の丈ほどもあるデュランダルが、モンスターを警戒させる。

 

 ジリッ。

 一歩、後退していくモンスターにラキは、デュランダルを振り下ろした。


「輝け! 『シャイニングスター!』」

「――!」


 ネーミングセンスが致命的だ!

 すげー。聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。

 だがその瞬間、剣先から光り輝くビームが放出され――


「ぐあああああああああああああ!」


 巨大なトマト。いや、モンスターの一匹は跡形もなく消滅した。


「バカッ、威力強すぎ! 消してどうすんだよ!」

「ごっ、ごめんなさい」

「ぴぎいいいい!」


 あの威力を前にしてモンスターたちは跳び上がった。

 そして、俺たちに背を向けて逃げはじめる。


「やばい! 逃げられる」

「にがしません!」


 ラキは、そう言ってデュランダルを持ち上げる。

 そして、そのままモンスターに向かって投げた。


「堕ちろ! 『スターダスト・シューティングー!』」


 デュランダルは、一直線にモンスターへと飛んでいく。


 ズブッシュッ!


「ぐえええええええええええ!」


 鋭い剣先が、モンスターの身体に突き刺さる。


「よしっ! やっと、食料確保!」


 俺とセメコはグッと拳を握りしめ、ガッツポーズをする。


 その瞬間、

「ボゴオオオオオオンッ!」

 デュランダルに突き刺さったモンスターが爆破した。

 ボトボトボトッ。

 バラバラになった中身が飛び散る。

 目ん玉がセメコの足元へと転がる。


「いやあああああああああ!」


 セメコが絶叫する。


「私のごはんがー!」

「なっ、なんで爆破するんだー!」

「ご、ごめんなさい。あのワザ、女神さんから教わったんですけど、『これなら遠距離で、敵の心臓が六個あっても一撃よ!』って言ってたんですけど……その、爆発するなんて知らなくて……」


 ラキはペコペコと頭を下げた。

 女神の想定してる敵が怖すぎるんだけど……。

 女神はこの子を人間兵器にでもしたいのだろうか。って、イカン! 

 こうしてる間にもモンスターがどんどん逃げていく。


「ワザはなしだ。斬るだけでいいから、とりあえず残り一匹を追うぞ」

「はっ、はい!」


 俺たちは必死に追いかけた。

 やっと見つけた食料なんだ。

 ぜったい食ってやる!

 残りの力、すべて出しきってでも。


「はっ……はぁ……ふっ」


 どれだけ追いかけただろうか。

 ついに手を伸ばせば届く距離まできた。


「観念しやがれ!」


 俺は、めいいっぱい手を伸ばす。

 よし。モンスターの背中に俺の手が――


「闇に導かれし混沌よ! 真名しんめいを我が身に宿し、この地この刻に裁きを下せ!『黒炎・死ノ幻影《ブラック・デス・ファントム》』」

 

 突然、俺の足元から黒い炎が現れる。


「――っな!」 

「タツヒコ!」 


 グイッ!


「うげっ!」


 セメコに服を掴まれ、後方へと引っ張られる。

 うっ、首が締まった。


「大丈夫、タツヒコ?」

「げほっ、げほっ。ああ、なんとか助かった」

「ほう。この俺の一撃をかわすとは、お前たちも選ばれし闇の住人たちか。だが、俺の同胞に手をかけた罪。お前たちには償ってもらおう」

「はあ?」


 わけのわからんことをペラペラ喋る、声の主へと視線を移す。

 そこには漆黒の鎧に身を包む、メガネをかけた男の姿があった。


「えーと、だれだあんた?」


 俺の問いに男はわらう。


「俺か? 俺は混沌の中で生まれ、終わりを告げる者。この世、すべての魔を司る闇の王。世界は畏怖を込めて俺のことを――」

「あー! トマトがああああ! トマトがいないっ! ちょっとお、邪魔よクソメガネ!」

「ちょっ、お前のせいでトマト見失ったじゃねーか! クソメガネ!」 

「――っな!」


 俺たちは、畏怖を込めてクソメガネと罵倒した。


「だあれがクソメガネだ! ゴルァー!」


 うわっ、怒ってんのに全然怖くねーや。このクソメガネ。


「あっ……まっ、まおう」


 ラキが静かにつぶやく。

 って、えっ……まおう?

 ……だれが?

 ラキの言葉にクソメガネがニヤリと嗤う。


「ほう、俺が魔王とわかるか小娘。こんな子供でさえ、わかってしまうほどの邪気が俺の身体から放たれているのか。フッ、わるいな。これでも邪気を抑えてるほうなのだが――」

「ううん。女神さんから写真で見せられて……その、見つけたら、うるさいけど弱いからさっさと倒しなさいって……」

「なにっ!」


 うん。女神のいったとおり、うるさい。

 うるさいうえにウザいときてる。

 それに弱そうだ。

 ラキのデュランダルなら倒せるだろう。

 だが、問題はそこではない。


「ぐぎゅるるるるるる」


 いたい。腹が減りすぎて痛い。

 こうなったらもう、アレしかないな。


「女神にめいじられたということは、お前たち勇者か。ヘッ、俺のことをザコ扱いとは、面白い冗談だ。だが、後悔しても遅いぞ」


 そう言って魔王は、真紅の剣を構えた。

 そのタイミングを見計みはからって――


「まった! 賭けをしないか?」

「ほう、賭けだと。この魔王と賭けをするというのか」

「ああ。俺たちが勝ったらメシをくれ」

「――っな!」


 俺の言葉に魔王は、驚きの声を漏らす。


「ラキ、すまないが、また頼んでいいか?」

「もちろんです。私もご飯食べたいですから。あと、魔王倒さないと女神さんに怒られちゃう……」


 ラキはそう言ってデュランダルを構えた。

 やる気まんまんだ。


「勝ったらだと。フッ、フハハハハハハハ。いいだろう。万が一、お前たちが勝てたなら、称号もこのクリムゾン・スクエアもやろう」

「いや、称号もそのクソダサい剣もいらねーよ!」

「俺の相棒を愚弄ぐろうするだと……」 


 するよ。そりゃするだろう。

 なんだよクリムゾン・スクエアって。

 日本語にしたら濃い赤の正方形……。

 剣じゃねーよソレ。

 おしゃれなティッシュ箱かなんかだよ。

 響きで決めやがったなコイツ。


「怒ったぞ。フッ、久しぶりに俺の魔眼もうずきだしたか。お前たちが負けたら、その魂を貰うぞ!」


 魔眼って、そのほそーい目のことか……。

 うずく前にもっと見開いたほうがいいと思うぞ。


 こうして俺たちは、晩メシと魂を賭けて戦うこととなった。


「ぐぎゅるるるるるるるる!」

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