小学生と中二病(その3)
「輝け! 『シャイニングスター』」
デュランダルから放たれる一撃。
光り輝くビームが魔王を襲う。
「ぎいいいやあああああああああ!」
魔王の悲鳴が響き渡る。
「……うぐっ……ぐ、は……ハァハァ。し……ぬ」
黒い鎧が砕け散る。
魔王の身体が傷だらけになっていく。
「すごいぞ! ラキ。えらいなー」
俺は、そう言ってラキの頭をなでた。
「へへー」
「ちょっとお! 私もなでてよ」
「なんでだよ! お前俺より年上っぽいじゃん。これは、活躍したチビッコ限定だ」
ガクッ!
セメコは膝をついて、俺をにらんだ。
ガクッ!
魔王は膝をついて、俺たちをにらんだ。
どうやらバカの悲しむリアクションは、一緒みたいだ。
「つ、強い……こ、この強さ……まさか、死神マスクか? いや、だが仮面をしていない。くっ、死神マスク以外でこれほどまでに強い奴がいたのか……」
死神マスク?
ふっ、なんだそのクソダサい奴は。
「ちょっとお、そんな変な名前の奴と私たちを一緒にしないでよ!」
セメコは、そう言って口をとがらせた。
あー、こっちも死神マスクに負けないクソダサい奴がいたんだった……。
まぁ、今はそんなことより――
「おい魔王! 俺たちが勝ったんだ。さっさとメシを食わしてくれ」
こっちは、一分一秒でも早く食いたいんだよ。
「ありえん。俺ほどの邪気を無効化するあの一撃……。因果率や世界の法則をも覆しかねん」
魔王は、膝をついたまま動こうとしない。
ダメだ。ラキに負けたダメージがデカすぎて現実逃避してやがる。
「おいクソメガネ! 俺たちが勝ったんだ、約束を守ってもらおうか」
その瞬間、ラキが魔王の元へと近づきデュランダルを振り上げた――
「輝け『シャイニング……』」
「ひいいいいいいいい! ゴメンナサイ! 本当にごめんなさい! すぐに用意します!」
魔王は、その場で土下座した。
元小学生は、魔王の土下座を前にして、
「よかったー。お腹ペコペコで怒りそうだったんですよねー」
そう口にして、ニッコリと笑った。
俺とセメコは、ふたりして震えた。
そして、異世界に来て学んだことがある。
魔王より、女のほうが怖い……。
「うまそー」
魔王城の中。
テーブルいっぱいに並べられたごちそうが、俺たちを誘惑する。
くー、晩メシがバイキングとは魔王もなかなかやるじゃないか。
あー、どれにするか迷う。
やっぱり肉にするか。
ポークフランク、唐揚げ、フライドチキン、すっごいデカい謎の肉。
俺は、皿いっぱいに肉を並べた。
だが、食事を開始しようとした俺を野菜たちが引き止める。
なすの天ぷら、かぼちゃの天ぷら、しいたけの天ぷら、たまねぎの天ぷら……くっ、草の天ぷらぁ?
……ヒ、ヒマワリか……コレ?
あっ、揚げるが好きなのかな。ここのシェフは……。
とっ、とりあえず四種類くらいは、うまそうだ。
俺の胃袋残量がまだ残っていれば、後で会おう。
名残惜しいが、いったん自分たちのテーブルへと帰還する。
「あっ、タツヒコさん。すごい、いっぱいですね」
俺の皿を見て、ラキが驚く。
「ああ、つい取りすぎて。まあ、たぶんコレで腹いっぱいになるだろうけど……」
「そうなんですか……」
アレッ?
なんだ? 急にラキの元気がなくなったぞ……。
「どうしたんだラキ?」
「えっ、あっ、いや……」
……?
なんだ、すごく悲しそうだ。
顔もうつむいてる。
「なにかあったのか? 遠慮なく言えよラキ! お前のおかげでこんなごちそうにありつけるんだ。それに、俺たちもう仲間だろ!」
ラキは、俺の言葉に顔を上げる。
「そ、そうですよね。私たち、もう仲間ですよね!」
「おう、そうだぞ! 仲間ってのは助け合いなんだから、悩みは相談してこいよ。力になるから!」
「あっ、ありがとうございます。実は、私の作った料理が人気なくて……」
「なにっ、ラキが作った料理! 俺が食べてやるよ!」
「ホントですか!」
ラキの顔が明るくなる。
こんなかわいい子が一生懸命作った料理なんだ。
それを食べて喜んでくれるなら、多少おいしくなくても食べるさ。
このまま傷ついて、料理をしなくなったらかわいそうだし。
「あたりまえだろ。それで、ラキの料理はどれ――」
そのとき、ラキの皿に草とヒマワリの天ぷらが見えた!
目の前でスタンバイしているソレがこの先の展開を予感させる。
「私が作ったのは、この天ぷらなんです。タツヒコさんどうぞ!」
ラキは純粋な笑顔で、俺の皿に奴らを移す。
「うっ、うまそうだな……」
俺は、ソレをフォークで刺した。
そのまま手が止まる。
草とヒマワリを食べないといけないのかぁ。
目の前に肉があるのに……。
「タツヒコー! みてみてー!」
セメコが俺の横に座る。
奴の手には、山ほど積まれたケーキがあった。
ぐおーっ、あんなもん見るとますますアレを口元に運びたくないんだが……。
「うふっ。おいしそうでしょ。タツヒコにも一個あげる」
セメコがケーキをひとつ渡してくる。
「あれっ、タツヒコったら、草とヒマワリが好きなの? ソレ、おいしくなさそうだよ」
「ばっ――」
「ぐすっ……」
目の前でうつむくラキ。
俺は、大急ぎでフォークの先にある天ぷらたちを口に放り込んだ。
「んー、うまい! うま…………」
「はい、タツヒコ。お水!」
俺はセメコから水を渡されると大急ぎで口に流し込んだ。
「ゴホッ、ゴホッ……う、うまかった」
もはや傷つけるだけとわかっていながら、うまかったという言葉以外のフォローがみつからなかった。
「きみも酷い男だねー」
魔王は俺の皿にある肉を口に運びながら、他人事のように嗤った。
魔王に酷い男とか言われたくねーよ。
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