85:勇者はこの感情の正体が分からない(2)

更新再開します!

※ここまでの詳しいあらすじはこの章初めの「ここまでのあらすじと主な登場人物」をご覧くださいませ。


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<簡易なあらすじ>

VRMMORPGゲームで「剣聖」の二つ名を持つ理奈は、剣と魔法のある乙女ゲームの世界に悪役令嬢・レティシアとして転生したことに気づく。

それと同時に、大好きな兄が、このままでは数ヶ月以内に事故で亡くなることを知る。

とりあえず、兄の死亡フラグを回避することに成功も、兄は重症。

理奈は兄に成り代わり、来年から魔法騎士になることを決意!


さらに色々あり、講師となった攻略対象者の王弟(A級冒険者に偽装)・

前世の元彼でいまは奴隷勇者の光輝(マクシムという名前の凄腕に偽装)・

光輝の見張り役で相棒の猫狂いベルタ(珍しい固有魔法の使い手)、

そして理奈の4人で迷宮に潜り、探索することになったのだが・・・

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オレ、仲河光輝なかがわこうきが岩に腰かけながら夕飯の準備をしていると、急に上から影が落ちてきた。

この世界ではチートともいえるような能力、日本でプレイしていたVRMMOキャラクター<サムド>の力をオレは使える。そんなオレに気づかれずに近くまで接近できるやつなんて、この世界ではいままで2人しか見たことがない。


いま迷宮を一緒に探索している「フレデリック・フランシス」のふりをした少女・「レティシア・フランシス」と<レイ皇国王弟>アルフォンス・レイこと、A級冒険者の<アルフレッド・ブラッドレイ>の2人だ。


上を見上げると、アメジストの瞳と目が合う。


やはりというかなんというか・・・オレを見下ろしているのは、その1人であるアルフォンスだった。


見るとメロンに似た果実を手に持っている。



「美味しそうだな。夕飯で食べるのか?」


「ああ。お前にもやるよ」



笑顔で語り掛けるとオレに向けてアルフォンスは、メロンみたいな果実を1つ投げてきた。

受け取ろうと手を伸ばす・・・・・が、


それと同時に・・・・シュッという音と共にアルフレッドの右こぶしがオレの顔めがけて迫ってきた。



「!??」



オレは咄嗟に果実を左手でキャッチした。・・・・と同時にその拳を左腕で力を流すようにかわし、そのまま・・・・横からガンッと押す。


アルフォンスの身体がわずかに右に傾いた。


その隙に右側からさらに腹に一発パンチをお見舞いして、一気に離れる。

この戦闘狂のヤバさは昨日の深夜・・・いや、今朝のやり合いでイヤというほど知っているからな。


腹に一発入れた瞬間、ゴッというかなり良い音が響いた。



「・・・っつう」



そして・・・・・・・・・・オレの右手がイカれた。



(皮鎧すらしていないのに・・・なんつー筋肉だよ。・・・いや、身体強化魔法のせいか?わかんねー)



ジンジン痛む右手をぶらぶらと振りながら、オレは突然攻撃をしてきたアルフォンスを睨んだ。距離は、5メートルほど離れている。


アルフォンスは、オレの一撃を受けたにもかかわらず、平然と突っ立っていた。

「ハッ」と鼻を鳴らす。


迷宮にいたときから、アルフォンスを殴りたかったが、その平然とした顔を見て、殴られたくせにダメージのなさそうなキレイな顔に無性にイライラしてくる。


思わず、レティシア・フランシスがこのキレイな顔をみて、瞳を潤ませていた姿がフラッシュバックする。



(腹じゃなくて、顔を殴ればよかったな)


「・・・なんのつもりだ?」


「あ“ぁ?・・・・・・んなの、今日の朝の続きに決まってんだろ?・・・・なぁ、勇者ぁ?」



思わず眉がピクリと動く。今朝、会ってから「なるほど・・・・・転移魔法・・・・・・・・ね」だとか「勇者並みに強い・・・・・・・なら、5日もあれば、依頼が終わりそうだな・・・・」だとかオレが「勇者」だと匂わす発言をよくしていたな・・・と思っていたが、このタイミングでそれを言うのか・・・。


思わず頭痛がして右手をこめかみに添えてしまう。



(この戦闘狂が・・・!!)



この世界に来てからの癖になってしまった溜息を一息吐きつつ、周りを確認する。

グラナダ迷宮の中でも大きい休憩部屋ということで、このオアシスにはオレたち以外にも、様々な冒険者たちがいる。


・・・・が、他パーティーがいるものの、割とオレ達から離れていた。声の聞こえる範囲にはいない。もちろん、<ベルタ>も<レティシア・フランシス>もいない。



(一応、タイミングを見計らったのか・・・・まぁ、依頼が終わったら聞くこともできなくなる。確かに確認するには最適のタイミングだな・・・・・。


模擬戦は置いておいて、オレもこいつの白い馬に用もあるし、なによりフレデリック・フランシスのことも聞きたい)



「朝の続き・・・ね。オレもアルフォンスさんに聞きたいことがあるから、ちょうど良かった」



朝、オレと会ったときに<レティシア・フランシス>が言った冒険者としての名前、<アルフレッド・ブラッドレイ>ではなく、王弟<アルフォンス・レイ>の名前で呼びかける。


<命令>によって、自分が「勇者」だと伝えることは出来ないから、こういうことで暗に自分が今日、日の出前に会った「勇者」だと教える。



「そうか。じゃあ一戦してから、情報のすり合わせと行くかぁ?」


(そこは戦闘の前に、情報のすり合わせじゃないのかよっ・・・!)



安定の戦闘狂の思考に、イライラが止まらない。剣を抜いて、オレに突っかかってくるアルフォンスを、片手剣でいなすと、その摩擦で火花が飛び散る。



(いや・・・違うな。オレも迷宮に来てからずっとこいつを殴りたくなっていた。だから正々堂々とこいつを殴れる模擬戦は、オレだって正直、歓迎だ。・・・・・・・というか、そもそもなんでこんなにイライラするんだ?原因は・・・?)



思考を飛ばしていると、なぜか<レティシア・フランシス>の顔・・・そして、最初に出会ったときに見た彼女の太刀筋が瞼に浮かびあがる。



(ああ・・・そうだ。顔は似てないのに、彼女はすべてが・・・・・・・・・やっぱり理奈に・・・・そっくりなんだ)



気のせいだと思っていた。<彼女・理奈>に会えない辛さからくる幻だと。


・・・だけど・・・・・・。


VRMMOのアクションゲーム。オレが操作していたキャラクター・賢者サムドと一緒にパーティーを組んでいた理奈。剣聖と呼ばれる彼女のキャラクターのモーションは、他のキャラクターの剣筋よりも、ずっと美しかった。


そうして、<レティシア・フランシス>の・・・その剣筋は・・・・・・・。



(実際は似ていないのに、ただの願望で似ているように見えているだけだと思っていたが・・・・・・違う。あの美しい剣筋は、そんな幻にできるようなものじゃない)



すさまじい速さで繰り出してくるアルフォンスの剣をいなしながら、オレは彼女との出会いを思い出していた。


1か月以上前にあった・・・・その日の出来事を・・・・・・。



乙女ゲームの悪役令嬢との出会いを―――・・・。

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