66:アルフォンス(アルフレッド)は深夜、徘徊する

深夜・・・人が寝静まったころだろう。周りの静寂が包まれている中、オレ、<レイ皇国王弟>アルフォンス・レイこと、<A級冒険者>のアルフレッド・ブラッドレイは、目を覚ました。


随分寝ていたのだろう。朝だったはずが、真っ暗だ。

肩も凝っている。コキコキと首を鳴らしながら、周囲を見渡し、習慣で枕もとの剣を手元に取り寄せようとしたところで・・・・


目の端に金色の髪が映った。

チラッと横をみると、あいつの<フレド>の寝顔が目に入る。


今日も、こいつはあろうことか、オレのベッドで眠っていた。



「おーおー、気持ちよさそうに寝てらぁ。・・・・・こいつ・・・・・・・危機感ねぇのか?」



そう呟きながら昨日・・・いや一昨日か・・・の出来事を思い出す。


一昨日、自覚したこいつへの感情。

男同士で王族と貴族・・・先の見えない今後の関係なんて・・・・まぁいま考えたって無駄だ。


そんなことより思い出させられるのは・・・・口づけた後のこいつの表情だった。



「まぁ、こいつも満更じゃなさそうだったからなぁ」



そう言いながら、口の端があがる。すげぇ楽しい。

こいつの頬を右手でさすり、おもむろに親指を唇に持っていく。

すると、ほのかに空いた口から舌が出て、オレの親指をこいつはぺろりと舐めた。



「ん・・・」



そして、吐息をこぼしながら、少しだけオレのほうに首を傾けた。深く眠っているのだろう。目は閉じたままだ。


・・・・・・そんなことされたら・・・・普通、抱きしめたくなるだろう?



「とりあえず、抱くのに邪魔だな」



そう言いながら、オレはこいつにかかっている布団を剥くことにした。


そして、剥いて・・・・・・・後悔した。


なぜか、あろうことに<フレド>は・・・・・女の恰好をしていたのだ。


なんでこんな恰好をしているのか知らないが・・・スカートが少し捲れ、少年らしい華奢な脚と・・・少年らしくない・・・・艶めかしい太ももが丸見えだ。


部屋にはこれまたおあつらえ向きに、同室であるはずの<イェルク>の気配も、なぜか・・・・ない。


2人きりで、好いたヤツが飛び切り情欲を誘うような恰好を・・・オレ好みの恰好をしていて、我慢できる男などいるだろうか?



「くそが・・・っっ」



とりあえず、こんな恰好・・・万が一、オレ以外のヤツに見られたら最悪だろう。オレは素早く掛け布団を元通りに直し、枕もとの剣を乱暴につかむ。


・・・・と、同時にベッド脇にある窓から病室を飛び出た。


あと1秒でもあの場にいようものなら・・・・・正直・・・・・・・・襲っていた自信がある。


よく我慢したよ・・・オレは。


未成年だからとか、男だから・・・一線を超えられない・・・・・とか、普通ならそんな理由で止められるのだろうが、オレはぶっちゃけ、そんな理由は・・・・枷にもならない自信がある。


出会ったばかりの癖に・・・そんなの問題にならないくらい、惚れちまってるからだ。


つまり・・・・なぜ我慢したのかというと、病室を出たかというと・・・・

寝ている状態だと、あいつの表情から同意が確認できない・・・という一点に尽きる。


さすがに好いたヤツを意識がないのにいろいろするのは・・・・と思い至ったところで、頭を振る。



「くそがっ・・・・!!」



オレらしくもねぇ。なんだそれ・・・・っっ!!

あいつは男で・・・ついでにガキなのに・・・・!!とりあえず思いつく限りの悪態を吐き捨てながら、オレは速足で歩を進める。


その足を向ける先は・・・・神殿の厩舎だ。


まぁ、普通の男がこんな深夜に暇をつぶせるところなんて、娼館くらいしかない。

だが・・・今のオレはもうそこは・・・・用のない場所だ。あいつ以外とか考えられねぇからな。



そうするとオレが行けるのは・・・・まぁ・・・・白い馬ライゼのところくらいだ。



(とりあえず、あいつが起きる朝・・・もしくは同室の<イェルク>が帰るころまで、白い馬ライゼのところに邪魔でもするか)


「そういや、怪我してから会ってなかったしな」



ぼんやり心配しているかもしれない白い馬ライゼのことを思い浮かべ、そう呟くと、割と早く厩舎が目に入った。


・・・・・と、厩舎を視界に入れる同時に・・・・オレのすぐ前を・・・既視感のある黒づくめが移動しているのに気づく。


黒づくめ・・・。その容貌は、明らかにオレを一昨日斬り伏せた覆面男だった。


深夜だし、何となくオレも気配遮断をしている。向こうはオレには気づいていなさそうだ。

しかし・・・・・オレ自身も覆面男の存在に、この距離に近付くまで気づかなかった。



(へぇ・・・やっぱり・・えらい精度の高い気配遮断じゃねぇか・・・!)



覆面男の様子に、自然と笑みを浮かんだ。


何度も言うが、オレが<第三騎士団副団長>を辞めたのは、強い奴と戦いたかったからだ。


昨日、瀕死の重傷を負って、まだまだ本調子ではないことなどすっかり忘れ、白い馬ライゼよりも<楽しい暇つぶし>を見つけたオレは、今まで以上に気配を消して、そっと覆面男の後ろに忍び寄る。


そうして、首元に剣を突き付けて、声をかけた。



「あ”ぁ?・・・お前・・・・またオレを斬りに来たのかよ?」



そういうオレの声音は、自分でも分かるほど、楽し気に弾んでいた。

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