65:勇者は深夜、暗躍する

F級冒険者フレドと名乗った<レティシア・フランシス>と出会った日の夜。

深夜0時はとうに過ぎ、2時をまわった頃だろうか。


オレ、仲河光輝なかがわこうきが拠点の一軒家から転移した先は・・・・街の中心、中央神殿や冒険者ギルド、迷宮の近くの路地裏だ。


この世界は寝静まるのが早い。娼館街の方は魔道ランプが点灯しているが、それ以外の場所は真っ暗である。


闇夜に紛れながら、かすかな明かりを頼りに、素早く移動する。

目指すは・・・・・・・この街最大の神殿、中央神殿だ。


今日、ベルタに聞いていてからずっと思っていた。

この街に<アルフレッド>がいるなら、<アルフレッド>の愛馬として有名な<白い馬>もその近くにいるんじゃないかと。


<ベルタ>の<命令>のせいで、<白い馬>と喋ることは出来なかったが、昨日の<アルフレッド>襲撃の場所にもいたし、<アルフレッド>は白い馬と一緒にこの迷宮都市アッシドに来たと、<ベルタ>自身が言っていたのだから。


ならきっと・・・・・・いや、いまも確実に近くにいるだろう。


<アルフレッド>は中央神殿にいると、ベルタは言っていた。

つまりは・・・<白い馬>もそこにいる可能性が高いとういことだ。


オレが元の世界に戻るために、女神に課せられた課題は1つだ。

世界の崩壊を防ぐために<ルナリア帝国の玉座であるを起動させる>こと。


そして、その課題達成のために、この世界に来た当初に、オレが・・・・

オレ自身に課した項目は4つだった。



・第一に玉座の位置を正確に把握すること。

・第二に<現在の加護持ち>と<白い馬>を見つけること。

・第三に<白い馬>にこの<一つの案>が問題ないかを聞くこと。

・第四に、問題がなかった場合は、<加護持ち>にこの協力を依頼して玉座を起動すること。


もし問題があった場合は・・・・もう一度、別の方法を検討すること。



いまオレは・・・ルナリア帝国皇帝である<イグナシオ・ルナリア3世>より、3年以内に4人を暗殺しろと言われている。


だが・・・その期限内に女神の課題を達成さえすれば、暗殺をする必要もなくなる。なぜなら理奈のいる<元の世界>に帰れるのだから。


この<隷属の腕輪>の呪縛がどこまで通じるか分からないが、女神の力より強いということはおそらくないだろうし、もしあったとしても<元の世界>で効力を発するとは思えない。


だから・・・・<隷属の腕輪>なんてものに縛り付けられていても、いや、縛り付けられているからこそ、オレの優先項目に変わりはしないということだ。


課題達成の期限が、出来るだけ早くから・・・・3年以内・・・になっただけ。


第一の項目は、もう叶っている。

玉座の場所は<最初の命令>をルナリア帝国皇帝に課されたときに確認した。


次は第二の項目である。


まずは・・・・<現在の加護持ち>について。

これに関しては居場所は分からないが、その人物の名前と・・・どのような人となりかは、ルナリア帝国皇帝から教えられて、知っている。


A級冒険者<アルフレッド・ブラッドレイ>、公爵家長子<フレデリック・フランシス>と同じように、オレの4人の暗殺対象のうちの一人だからだ。むしろルナリア帝国皇帝からしたら<メイン>の暗殺対象者といえる。


そして<白い馬>は・・・・オレの推測が正しければ・・・・・・・この先にいる。


もしこの先で<白い馬>に出会えれば、第三の目的、「白い馬にこの<一つの案>が問題ないかを聞く」もすぐに達成するだろう。


オレをここに送り付けた女神が言っていたのだから。


「<白い馬>は私の力の一部を譲渡している、いわゆる<精霊>と呼ばれる<私の分体>なんだ」


・・・・と。そして、


「<勇者>と<聖女>、それから<加護持ち>なら、<白い馬>と簡単な意思疎通はできるから、詳しくは彼らに聞けば何とかなると思う」


・・・・と。


だから、オレが女神カトレアに召喚された勇者だと分かれば、きっと・・・・オレの質問に答えてくれるはずだ・・・・・・オレが、自分の<主>を斬った男だとしても・・・・・。


そこまで想像して、イヤな汗が頬をつたう。

・・・<アルフレッド>の<白い馬>に、返答を拒否されたときのことを想像してしまったのだ。


<女神の分体>というからには、意識は女神と繋がっているようなものだと、実際目にするまで思っていたが・・・・昨日会った<白い馬>はどうだっただろうか?


昨日、アルフレッドをオレが斬り伏せたときの<白い馬>の表情や<セリフ>は・・・・・オレを召喚した女神とは・・・・・別の個体のような印象を受けた。


だとしたら・・・・・・オレを拒絶する可能性は・・・・否定できないだろう。もしいまから会おうとしている<白い馬>に拒絶をされたら・・・・・と、そこまで考えて、一度右手をこめかみに置き、息を吐きだす。


いろいろな想像が駆け巡るが・・・・それは、後回しにしたほうがいいだろう。

いまやることは決まっているのだから。


中央神殿の近くまで到着すると、正面扉を無視し、人通りがないことをざっと目線で確かめて、側面の壁を駆け上る。



ストッと軽快な音を鳴らしながら、地面に着地する。

難なく中に侵入ができた。


周りに気配がないことを確認し、<馬>というからには厩舎にいるだろう、とあたりをつける。


この世界に来てから、様々な宿屋、王城等を見てきたが、厩舎は「南東側」にあることが多かった。


恐らくここもそうだろうと当たりをつけ、周囲を警戒しながら歩を進める。


出来るだけ、気配を消すよう努める。


サポート特化型のキャラクターである<サムド>の<気配遮断>は本気を出せば、ゲーム世界のランキング上位キャラクターでも見破るのは、難しかった。


だから・・・・大丈夫だろうが・・・・・慢心せずに警戒する。


なぜならこの中には、夕方に会ったオレを殺そうとしている少女である、あの<レティシア・フランシス>がいるから。


そうして、厩舎を目の端にとらえ、安堵の息をついたとき・・・・・・首元からガチャっという音が聞こえた。


・・・・・首元から伝わる金属質な・・・・・感触。


明らかに首元に剣を突き付けられている。


この世界で・・・<チート>とも呼べるようなオレの<サムド>の能力に感づかれずに・・・・こんなことが出来る人物など限られる。


先ほど思い浮かべていた<レティシア・フランシス>の顔が思わず、浮かぶ。


この状態では、転移魔法も使おうとした瞬間に、斬られて終わりだ。


絶体絶命のピンチ・・・・・・。

どう切り抜けるか高速で頭を巡らしながら・・・とりあえず、音がする方向に目線を向けた。


そこには、思わぬ人物がいた・・・・・。



「あ”ぁ?・・・お前・・・・またオレを斬りに来たのかよ?」



そう言って嬉しそうに、にやりと笑うのは、<アルフレッド・ブラッドレイ>。


<白い馬>の主で、昨日・・・いや、一昨日俺によって斬られ、重傷を負ったはずの人物だった。

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