67:勇者は、攻略キャラに出会う(1)

「レティシア・フランシスじゃ・・・ない?」


オレ、仲河光輝は目の前にいる思わぬ人物に目を見開いた。

思わずつぶやきが漏れる。


その言葉に反応したかのように、なぜかオレに向けられていた首元の剣が少し緩んだ。


その隙を見逃さず、首元の剣から・・・アルフレッドから・・・・オレは距離を取る。


ズザっと勢いよくオレが地面に着地した音が鳴る。

こういうとき速度が凄まじく速い<サムド>でよかったと思う。一瞬で10mは距離を離せた。



「レティシア・フランシス・・・・?」



虚をつかれたような顔をしてオレの方を向くアルフレッド。

次の瞬間、眉根を寄せた。



「フランシス・・・・つーことは・・・フレドの女兄弟かなにかか?・・・ん?お前、こんなところでフレドの兄弟と待ち合わせでもしていたのか?」


「・・・・・・」


「なんでだ?そういや、お前って・・・2か月前にフレドを襲ったのと同じ奴なんだよな?斬られながら、あいつとの会話をうっすら聞いてたから知ってるぜ?


じゃあ、お前がオレやフレドを殺そうとしてんのは・・・・・いま言った<レティシア・フランシス>っていう、フレドの兄弟が関わってんのか?」



黙り込むオレの眼前で迷推理を披露する、A級冒険者アルフレッド。


彼が、そんな頓珍漢なことを言うのは、彼が行動を共にしている人物を<レティシア・フランシス>ではなく、<フレデリック・フランシス>と認識している証左だった。


・・・やはりオレの考えた通り、彼女は、兄のふりをして、アルフレッドと行動を共にしているらしい。


なぜだか知らないが・・・・・・。


そっと息を吐き出す。<白い馬>に会いに来て、アルフレッドと遭遇することは、想定内だった。


・・・・まぁ、想定の中でも最悪の1つでもあるのだが。


ここで彼の疑問に答えること、「お前と行動しているのは<フレデリック・フランシス>じゃなく、<レティシア・フランシス>だ」と事実を突きつけてもいいが、突き付けた場合のアルフレッドと・・・・<レティシア>の行動の予測ができない。


予測ができないものは、却下だ。違う案をオレは採用することにした。



「オレがお前たちを狙ったのは、このせいだ」



そう言って腕をまくり、召喚してすぐ腕にはめられた、オレがルナリア帝国皇帝の奴隷にならされた元凶である金色に輝く腕輪、<隷属の腕輪>を掲げる。


オレがルナリア帝国皇帝イグナシオ・ルナリア3世から受けた命令は多岐にわたる。


だが、その命令の根幹は大きくは4つに分けられる。


1つ目は、イグナシオ・ルナリア3世や彼の味方に歯向かわないこと。


2つ目は、3年以内に定められた4人を暗殺すること。また暗殺に関してルナリア帝国が主犯だと疑われる行為をしないこと。


3つ目は・・・・・

「マクシム」というこの世界でありきたりな名前を名乗る様に命令されることからも分かる通り、「オレが勇者であること」を相手に伝えること。


そして、最後の4つ目は・・・・

オレが「奴隷」であることを既に知られている人物以外に伝えること、である。

具体的には「自分が奴隷である」と相手に言葉にする行為を禁止されている。


最後の命令は、万が一、オレが「勇者」だとばれ、さらには「隷属化」されていると知られると、一般庶民はもちろん、他の五大国から相当な非難されるからだろうと予想している。


この世界では「勇者」や「聖女」は異世界から「女神」の呼びかけに応じて召喚されるため、「女神の子ども」のような存在だと認知されているのだ。

そんな人物を「隷属化」させたとあれば、五大国の王族といえども、厳しい処罰をされることは想像に難くない。


・・・で、なぜオレがこの場で、アルフレッドの前で<隷属の腕輪>を掲げたかというと・・・・・・・・。

彼ならば、この<腕輪>が何なのか、知っていると予想したからだ。


ルナリア帝国では、帝王以外にも・・・・オレをはめた騎士団長・リーンハルトやその配下の者など<隷属の腕輪>の存在を知っている人物が複数いた。

・・・・・が本来、<隷属の腕輪>なんて存在を知るのは・・・・・五大国の王族くらいしかいないという。


高笑いをしながら、ルナリア帝国帝王がオレに教えたので、事実だろう。


だからこそ彼は・・・オレに<隷属の腕輪>の存在を<他者に隠せ>とは命令しなかった。


<隷属の腕輪>を見せながら、アルフレッドの<腕輪>の存在を教えても、意識を失うほどの雷撃が体を襲わない事実に、目の前の彼を冷静に見つめるふりをしながら、内心ほっと息を撫でおろす。


心臓が、バクバク言っている。


これは・・・・賭けなのだ。


この世界が、本当に乙女ゲームとリンクしているならば・・・彼の反応はきっと・・・・・。


アルフレッドは、オレの腕をいぶかしげに見て、次の瞬間、大きく目を見開いた。



「隷属の・・・腕輪・・・・だと?」



思わず、口角があがる。どうやら、オレは賭けに勝ったらしい。


アルフレッドは冒険者であるが、実はレイ皇国の<王弟>である。

ルナリア帝国帝王には教えられなかったが、オレは彼の情報を、乙女ゲーム好きな理奈の姉から聞いて、知っていたのだ。


王弟ならば、<隷属の腕輪>の存在は既知のものだろう。



(それにしてもこの世界に来てから、暗殺だ、奴隷だ、と全く乙女らしくない現状だというのに・・・・・・・・・・。

この世界が、乙女ゲームの世界にリンクしているだなんて・・・


本当に・・・・・すごい皮肉だな)



さすが<乙女ゲームの攻略対象者>というべきアルフレッドのキレイな顔を見つめながら、オレはそう心の中で嘆息する。


・・・が、即座に次の一手に頭を巡らせはじめる。


・・・・・・・・最善の結果を出すために・・・いまやれることは・・・・・たくさんあるのだから。

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