51:鍛錬3日目・神殿の朝(5) 風魔法エアロ

どうやら、イェルクに私が<フレデリック・フランシス>だとバレたらしい

(まぁ、実際の私は兄・フレデリックのふりをしているレティシア・・・・・だが・・・)。


十中八九、つい癖で詠唱省略を使ったせいだろう。

父・コドックも言っていたからな。


「フレドみたいに、若いうちから詠唱省略ができるようになることなんて、不可能に近い」と・・・・・・。


つまり<詠唱省略>をしたせいで<南の領地>の領主・コドック・フランシスの嫡男、フレデリック・フランシスだとバレたということだ。


まぁ、アルフレッドと冒険者として迷宮探索に来ただけで、特に私が<フレデリック>であることを隠していないから別にバレても問題はないのだが・・・・・・・。


ただ、ここは<南の領地>の国境沿いの迷宮都市<アッシド>だ。


<アッシド>を直接、運営しているのは、領主代行の叔父である<ハワード・フランシス>ではない。


<ハワード・フランシス>の方針を受けて、<南の領主>配下の<マティンサロ子爵家>が運営しているのだ。

・・・・だから、いまこの街に領主の息子がいると知られたら、必要以上の歓待を受けそうな気がする。


そうすると、アルフレッドの怪我の具合にもよるが、迷宮に潜るのに時間がかかるだろう。



(迷宮で魔獣退治・・・早くしたいんだけどな・・・・)



チラリとユリウスとクラーラに目線を向ける。


ユリウスは、詠唱省略よりも私が使った<エアロ>に興味があるらしく、イェルクの呟いた<フレデリック>という言葉は全く気にしてなさそうだ。



「・・・・・この魔法は・・・・・・・!」



・・・と呟いた後、指で自分の顎をいじりながら、何やら真剣に考察している。


クラーラにいたってはまだ顔を真っ赤にしたままでどこかに意識がいっていて全く気付いてなさそうである。



(問題なさそうだな)



そう判断した私はひげ面男・イェルクに、肩をすくめるだけで返事をして、ユリウスに向き直る。



「確か回診でしたよね。アルフレッド殿・・・・アルの怪我の具合はどうですか?」



塩対応キャラに配慮しながら、ユリウスに声をかけると彼は「ハッ」としたような顔をした。



「いまのは風魔法でしょうか?その<エアロ>という魔法、もしかしてアルフレッドさんにもかけましたか?」


「そうですね。昨日、いろいろあって2回ほどかけました」



なぜか怪我の具合ではなく、そんなことを聞いてきた。


私の返事に一度頷くと。


何やら不機嫌顔のアルフレッドを意にも介さず、ユリウスはアルフレッドの着ていた上着を脱がせる(アルフレッドはいま入院用のパジャマのようなものを着ている)。


そうして背中の傷口を確かめるように、傷口に指を這わす。



「我は天の理の声に重ねる魔の力・・・アープラ」



彼が詠唱を唱えると、魔法が発動した。

その魔法は、公爵子息教育で習ったことのある魔法だった。



(確か・・・・光魔法・アープラ)



<光魔法:アープラ>

現代日本でいう健康診断を一瞬で行うような魔法。具合の悪い箇所がないか、診察できる。その精度は光魔法の使い手の力量に依存する。



「これは、すごいですね・・・・!瀕死の原因は血液不足だったとはいえ・・・・・・1日でここまで回復するなんて・・・・・・・!!


昨日は最上位の治癒魔法にハイポーションも使ったけど、本来ならこんなに良くなるはずはない・・・・十中八九、君が今見せた<エアロ>とかいう風魔法のせいでしょう!」



感嘆の声を上げ、キラキラ顔を輝かせて満面の笑みを浮かべるユリウス。



「その魔法はいったい・・・・・・?」



しかし、次の瞬間声音が、急激に低くなる。



「・・・・っっ、エリアス様をこんなに興奮させるなんて、すごいんですね・・・・っっ」



そううっとりとした顔でクラーラが、私を見つめてきたのだ。



「クラーラ、僕は全然興奮してない・・・・・・・・から。

・・・ああ・・・あなたは・・・・・フレデリックさんでしたっけ?」



そうして、意味ありげにイェルクをチラリと見た後、私に視線を戻す。



「全く気にならないけど、一応、アルフレッドさんが神殿にいる間、毎日その魔法エアロをかけてください。


僕の治癒魔法と比べたら、全く凄くはない・・・・・・・・のですが、

一応光魔法以外で怪我を治す魔法が見つかったら、神官として神殿に報告する義務・・・・・・・・・がありますので。


それから、クラーラ」


「はい、なんでしょう?」


「さっき神官見習いのジャックが、部屋の担当を変えてほしいって言ってたよ。

だから、クラーラは今日から別の部屋・・・・・・・・・の担当だよ」


「えっ?」



目を丸くするクラーラに満面の笑みを向け、彼女の手を握るとユリウスは挨拶もせず、扉から出て行った。



「オレ、まだ朝の回診受けてないんだけど・・・・」



二人が去っていった部屋で、ぽつりとイェルクの声だけがむなしく響いた。

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