50:鍛錬3日目・神殿の朝(4)ドン引き

「クラーラ・・・その蝶の髪留め、少し壊れているみたいだよ?」



私から目線をそらしたユリウスは、満面の笑顔でクラーラの髪に手を伸ばす。



「え?」



そうして、スッと髪留めを取り、クラーラにそれを見せる。



「あれ?本当ですね。つけたときは、こんなゆがんでなかったはずなのに・・・・なんで」



今にも泣きそうな悲しげな表情をするクラーラ。



(おいおい・・・・・ひどいな・・・・)



その様子に私はドン引きだ。昨夜から気配察知を常時展開している私には分かってしまった。

ユリウスは、髪留め取った瞬間、何らかの魔法を手のひらで発動させて、髪留めを自分で・・・壊したのだ。


・・・で、それをさも元々壊れたかのように・・・・・・・・・・装ったのである。



「クラーラ、悲しまないで。僕、腕のいい細工師を知っているから、直してもらえるか聞いてみるよ」


「本当ですか?でも・・・・」



少し期待する表情でユリウスを見つめるクラーラ。



「それに、もしその細工師でもダメだったら、僕が新しい髪留めを贈ってあげる!


そうだな。クラーラの髪色には、この男の瞳の色と同じきったない色・・・・・・・・じゃない方がいいんじゃない?


絶対、ローズクォーツの色のほうが似合うよ!」



その言葉で私は何となく分かってしまった。


(こいつ、髪留め直す気、ないな・・・)と。


さすが攻略対象者。私の正体が、悪役令嬢<レティシア・フランシス>だからなのか知らないが・・・・どうやら会ったばかりの私のことが嫌いらしい。



「あ”ぁ?・・・・きったねぇ色だと・・・?」


「アル、ここ神殿だから!エリアス様は、昨日アルを治してくれた!神官様だから!!」



いきなり殺気を放つアルフレッドを、先ほどから居るのに全く気配を感じさせなかったひげ面男こと、<イェルク>が必死に止める。


そうして、思い出す。自分はいまアルフレッドの膝の上だということを。昨日、白い馬ライゼに同乗しただけでも意識が飛ぶほど、キツかったのだ。


・・・・当然、こんな状態は、前世喪女にも貴族令嬢<レティシア>にも昨日以上にキツい。


おもむろに腰を上げようとすると、腰に手を回された。

耳元で吐息交じりにアルフレッドがささやく。



「あ”?・・・勝手に動くんじゃねぇよ」


「・・・・っっ」



私の耳はじわじわと赤くなる。


私たちの様子に、びっくりした顔をするユリウス。

クラーラは顔を真っ赤に染めて、両手で顔をおおっている。可愛らしい瞳はその隙間から、私の方をしっかり凝視しているが。


心の中でそっと息を吐きだす。



(いまの私は兄<フレデリック・フランシス>のふりをしている。こんな大勢の中で、密着状態を続けたら、誰かに絶対女だと悟られる・・・・)


「エアロ」



咄嗟に<あらゆるモノから対象を守る風魔法>エアロを自分自身に重ね掛けする。

昨夜とは違い、<アルフレッド>から<自分>を守る様に願いながら。


しかし、さすがアルフレッドというべきか。若干、腰に巻きついた手が緩んだだけだった。

・・・でも、そのくらいの隙ができれば十分だ。


すぐさま身体強化魔法で強化した脚力を活かし、アルフレッドの膝の上から逃れ、素早くひげ面男こと、B級冒険者・イェルクの近くに行く。


彼は今までの言動から言って、私をアルフレッドから守ろうとしてくれているからな。ここは、比較的安全なはずだ。


急に自分の傍に来た私を、イェルクが驚愕の表情で眺める。

そうしてぽつりと呟いた。



「・・・・・・・・<南の領地>の天才児・・・フレデリック・・・・・・・・・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る