49:鍛錬3日目・神殿の朝(3)ユリウス・レーガー

顔を扉の方に向けると、神官見習いの女性<クラーラ>とひげ面男こと<イェルク>、そしてもう一人・・・・<男の子>が立っていた。


現在、160cmほどの私より少し背が低いその男の子は、金色の髪にローズクォーツ(薄いピンク)の瞳をしていた。にこにこ笑っていて、顔もとても可愛らしい感じだ。


一度も会ったことがない男の子。そのはずなのに、猛烈に違和感を感じた。


(・・・・ああ、またか・・・)と思わずにはいられない。



「ユリウスってば、チョー可愛い。やっぱ年下わんこ系もいいわ~。こんなこと言われて甘えられた~い」



頭の中で前世の姉の声が響き、顔面が蒼白になる。


そう、彼はこの国の王太子<トーマス・レイ>、そして隣にいる王弟<アルフォンス・レイ

(冒険者名:アルフレッド・ブラッドレイ)>と同じ、私<レティシア>の死亡フラグ<攻略対象者>・・・・・なのだ。



<ユリウス・レーガー(神官名:エリアス)>


レイ皇国・北の領地を治めるレーガー公爵家の三男坊。魔法属性は光。治癒魔法が得意なため、打倒<ルナリア帝国>の旅に聖女のサポート役として付き従う。


少年時代に、<初恋の女性>が魔獣に襲われて亡くなって以来、自分は恋することはないと思っていたが、聖女と交流するうちに恋心を抱くようになる。


ユリウスは、主人公である聖女に嫌がらせをする<レティシア>を直接、害することはない。


だが、彼のルートに入ると、その途端に、ルナリア帝国と内通しているのがバレ、

<レティシア>はストーリーの序盤にもかかわらず、断頭台に送られることになる。

ある意味怖いキャラクターである。



「アルフレッドさん、昨日は瀕死の重傷だったのに、もう動けるんですね!」



そう言って、扉からきらきら笑顔の男の子こと、<ユリウス>がすごい速さで近づいて歩いてきた。なぜか<クラーラ>の左手を握りながら。



「エリアス様、速いです!というか、手を放してください!!」


「もう!クラーラ、エリアス様はやめてってばっ!ユリウスって呼んでっていつも言っているでしょう?」


そう頬を膨らましながら、クラーラを見つめるユリウス。


この世界では、神殿の<神官>になると本名とは別の名前が贈られ、神殿内ではそれを用いられるようになる。

ユリウスはまだ私と同じくらいにも関わらず、一人前の<神官>であるらしい。

その名前を呼ばれるのが嫌なのか、本名で呼ぶようにクラーラに訴えている。



「なんてあざといの・・・!でも、そんなことをしても、弟や妹がたくさんいる私には効きませんよ。

エリアス様。


エリアス様はまだ小さいですが、立派な神官なんですから、神官名でお呼びするのは当然です」


「む~、クラーラが冷たーい!」



そう言って、クラーラの手を自分の頬に擦り付けながら文句を言うユリウス。



「・・・どうでもいいが、ユリウスだったか?・・・・・・回診なら早く終わらせろ」



そんな中、呆れたようなアルフレッドの声が響いた。

途端にいい笑顔をアルフレッドに向けるユリウス。



「あなたに本名を呼ぶ許可した覚えはないですよ、アルフレッドさん」


「あぁ?」



なんだか不穏な空気が流れる。



(なんだ・・・?本名で読んでほしいんじゃなかったのか?)



思わず、首をかしげるとクラーラと目が合う。反射的に、公爵子息教育で得たほほ笑みを浮かべる。



「おはよう、クラーラ。今日は蝶の髪留めをしているんだね。

・・・・・私の瞳と同じターコイズブルーの色だ。

・・・・クラーラの薄茶アンバー色の髪に映えていて可愛いね」


「・・・・あ。おは・・・おはようございます・・・っ!」



クラーラが真っ赤に顔を染めながら私を見つめる。

・・・・その瞳は、どこかメアリに似ている。



(・・・ん?もしかして、クラーラもメアリと同じで男装した私の顔が好みなのか・・・・・・?)



そう思ったと同時に、腕をぐいっと引かれた。何度も言うが、貴族令嬢である<レティシア>の力は身体強化魔法を使っても、そこまで強くはない。


アルフレッドのような男に腕を引かれたら、なされるがままだ。

ポスンとベッドに腰かけるアルフレッドの膝の上に体が落ちた。



「・・・急に・・・何するん」


「へぇ?・・・・・・・・・・君、僕に喧嘩売ってるの?」



アルフレッドに抗議をしようと声を出した私の声にユリウスが声をかぶせてきた。

少年らしい高い声質がなぜか成人男性並みに低い声に変わっていた。


思わず顔を上げると、目の前には、笑顔なのに全く目が笑っていないローズクォーツの瞳があった。

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