48:鍛錬3日目・神殿の朝(2)ひげ面男イェルク
「着替えるんだろう?・・・手が止まってる」
パニック状態から、何とか回復した私は、いまなぜかアルフレッドに見守られながら、着替えることになっていた。
ちなみに回復できたのは、1点につきる。<日の出までに整列していない新人は罰則>という言葉だ。つまり、
安心した。
どんな罰則でも、早起きより辛いものではないはずだ・・・・私は甘んじて罰則を受け入れることに決めたのだ。
・・・・で、冷静に戻った私は<ひげ面男>改め、イェルクが、どうやらアルと知り合いらしいと気づいた。
ベッドから身体を起こしながら尋ねる。
「イェルクさんもアルフレッド殿・・・・・いえ、アルと同じ冒険者なんですね。冒険者ランクはB級ですか」
「まぁな」
ちなみにアルフレッドの名前をアルと言い直したのは、「アルフレッド殿」と言った瞬間、アメジストの瞳が怪し気に細められたからだ。仕方ない。
アルフレッドは、本当に面倒くさい塩対応キャラだ。
「昨日、フレド・・・・くんがアルフレッドを抱えて入ってきたときは、本当に驚いたよ。アルフレッドが意識を失うほどの怪我をしているんだ・・・。何かトラブルがあったんだろうが、そのトラブル元がフレド・・・・くんである可能性もあると思った。
悪いが初対面の君がどんな奴なのか分からないから、昨夜からずっと寝ずに2人の様子をうかがって、何かあればアルを助けようかと思っていたんだ。
まぁ、助けることになったのは・・・アルじゃなくて君だったが・・・」
そう言って、イェルクは苦笑する。
ちなみにイェルクが「フレド」というたびに、アルフレッドが殺気を飛ばすため、イェルクは「フレドくん」と言い直すはめになった。
何が気にくわないんだ・・・・・この塩対応キャラは。
「まぁ、君は着替えたほうがいいよ。アルフレッドが、女だけじゃなく男もいけるとはしらなかったが・・・いや、まぁいけないヤツでも君は・・・・ああ・・・・まぁ、とにかくさっきの状況はきっと君の格好のせいもあるだろう・・・・」
そう言って、視線を私の膝の方へと向ける。
私も一緒に視線を向ける。そこには、アルフレッドのシャツが少し捲れ、軽く太ももが見えていた。
私の中の貴族令嬢レティシアはあいも変わらず、悲鳴を上げ続けているが、私は気にならない。
現代日本人からすればスカートを履いていれば、常時この程度の露出はあるのだ。大した露出ではない。
だが、気づいていしまった。男装しているから、気にもしていなかったが、この格好はいわゆる「彼シャツ」状態ではないかということに。
・・・急にいたたまれなくなり、頬が熱くなる。
「・・・き、着替え・・まず・・・」
思わず、か細い声で呟いてしまう。ごくりと何かを飲み込む音が響く。
「・・・・・イェルク、お前ぇええええ・・・!!!なに見てやがる!いますぐ部屋を出ろ・・・・!!」
「・・・え?あ・・・?・・・いででででででーーーっっ」
アルフレッドが急に、イェルクの腕をさらにひねり上げ、病室から追い出し始めた。
何度も言うが、イェルクは両腕を骨折して入院している。
・・・・で、冒頭のシーンに戻るという訳だ。
アルフレッドが自身のベッドに腰かけながら、急かすように目を細めて私を見つめる。
どうやら私が着替える間、目線を外す気はないらしい。
肩をすくめて、昨日来ていた自分のトラウザーズを手に取り、シャツの裾が持ち上がらないように注意しながら、ズボンをはく。
それを見ていたアルフォンスは鼻で笑った。相変わらず、顔が良いのにその所作ですべてが台無しである。
「上も着替えろ」
「このシャツで十分です。ああ・・・私に自分の服を着られるのが、イヤなんですか?・・・だけど、さすがに私の服は昨日のあれこれで、血まみれなんで着たくないんですが」
「・・・・そうじゃねぇ!」
だったら、何だというんだ?私は本当に着たくないぞ。昨日の服・・・特に上着類は壊滅的なくらい汚れてるんだ。
いぶかしげに思い、首をかしげると、アルフレッドが目線を外して、口元を手で抑える。
耳が赤い。
その時・・・・・・・
「朝の回診のお時間なんですが・・・・あの・・・その、よろしいですか?」
神官見習いの女性<クラーラ>の遠慮がちな声が響いた。
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