41:勇者の過去(2)女神カトレアの願い

カトレアは言う。


「私の世界は、光輝のいた世界と違って、あまり力のない世界なの。


世界中にちらばる<5地点の地脈>に設置してある、古代魔道具アーティファクトから世界に定期的に<私の力>を注がないと、活力が失われて、人が住めない世界になってしまうの。


その古代魔道具アーティファクトは特殊だから、5地点の地脈・<それぞれ>起動できるのは世界中で<1人>だけ。


私の眷属の子孫・・・その中でも<加護持ち>と呼ばれる<その時間軸の中で最も眷属に近しい素養を持つ者>にしか起動できないようになっているんだ」



「ふーん。つまり、<1つの地脈・古代魔道具アーティファクトにつき、1人だけ起動できる者>がいるってことか・・・・。


・・・で、それを説明するってことは、起動できていない古代魔道具アーティファクトがあって、オレはその<古代魔道具アーティファクトの起動の手助け>をするために呼ばれた・・・とかかな?」


「その通り!頭いいね、光輝は」



光がさらにまぶしく光る。カトレアの感情に呼応して、光るのかもしれない。



「・・・ありがとう」



気のない返事をしながら、愛想笑いをする。割とオレは昔から容姿でも勉強面でも褒められがちなので、他人からのそういう賛辞は、もうあまり心に響かなくなってしまったのだ。


まぁ・・・ずっと憧れてた彼女・<理奈>に同じ言葉を言われたら、すごく嬉しいけど。

・・・とその場面を思わず想像してしまい、だらしなく口元が緩む。


そんなオレの様子には全く気づかず、カトレアは弾んだ声で話を続ける。



「最低でも<20年に1回>は、古代魔道具アーティファクトの起動をして、力を注がなくちゃいけないんだけど・・・・・・1つの地脈にある古代魔道具アーティファクトが<この30年ほど全く起動していない>んだ。


だから、その地脈周辺はそろそろ、作物がうまく育たなくなるとか、人を害する魔獣が増えるとかし始めそうで・・・かなりまずい状況なんだよ・・・」


「確かにそうなったら・・・人や生き物がたくさん死ぬだろうなぁ・・・」


「そうなんだよ!その地脈周辺が・・・いわゆる<死の大地>になるのに、あと10年も猶予はないと思う。


そして、そこが壊れたら、徐々に他の地域も<死の大地>に浸食されて、世界自体が手遅れになってしまうんだ。


だから、光輝には10年以内に、できれば<5年以内>くらいに・・・・<5地点の地脈>に設置してある古代魔道具アーティファクトの1つ、<ルナリア帝国王城>の<帝王の玉座>に、その古代魔道具アーティファクトに合った<加護持ち>を座らせてほしい!」



カトレアの言葉に、オレは目を見開く。



(いま、王城って言ったような?・・・しかも玉座・・・・?)



思ったより、面倒なことをしないといけない予感がした。目を細めながら光を放つカトレアに向かって話しかける。



「つまり・・・オレはその<加護持ち>を<ルナリア帝国>の<王様>にしないといけないのか・・・?」


「そうだよ!本当に頭がいいね、光輝は!!」



嬉しそうにまばゆい光をまき散らすカトレアに、オレはさらに目を細めつつ・・・思わず、右手でこめかみを押さえた。



「マジか・・・・」



自分で肩を落とすのが分かる。



「大丈夫!私が、光輝をちゃんと勇者にして世界に送るから!


この世界に召喚する異世界人は男性は<勇者>、女性は<聖女>って呼ばれているんだけど、みんな私から世界に送る前に<ゲームの中で使っていたキャラクターと同じ能力>を授けて、送り出すんだよ!


光輝はこの<サムド>ってキャラクターと同じでいいかな?」



その言葉にギョッとした。<サムド>は彼女・<理奈>と一緒によくパーティーを組んでVRMMOのアクションゲームでプレイしていたキャラクターだ。


<理奈>のキャラクターは<剣聖>と呼ばれるほどの有名人。

その名の通り<攻撃力特化型>だったから、オレのキャラクター<サムド>は<サポート重視型>のキャラクターにしていたのだ。



「いや・・・そのキャラクターはちょっと・・・」



サポートを重視している関係で、治癒魔法と転移などができる時空魔法、スピードは素晴らしいキャラクターではあるのだが、単体では少し力が弱いキャラクターなのだ。


オレの懸念が伝わったのだろう、カトレアは困ったように光を少し弱める。



「うーん・・・もう時間がないんだ。向こうの<特殊召喚魔法陣>の光が消えかけているから。


心配しなくても、大丈夫!


私の世界は、魔法を使えるのは<貴族と一部の庶民>しかいないから、そのキャラクターはとっても強いよ。魔力も世界で一番レベルだよ!!


じゃあ、あっちに行ったら、まずは<白い馬>を探してね。


<白い馬>は私の力の一部を譲渡している、いわゆる<精霊>と呼ばれる<私の分体>なんだ。


<勇者>と<聖女>、それから<加護持ち>なら、<白い馬>と簡単な意思疎通はできるから、詳しくは彼らに聞けば何とかなると思う」


「白い馬・・・?」



困惑して、オレはさらに詳しく聞こうと思ったのに、「よろしくね!光輝!!」・・・と会話を叩きおられた。


カトレアから放たれた光が徐々に強まり、体中を覆う。

また目の前の空間がゆがむ。


車酔いの時のような三半規管がイカれたよう状態になり、再度吐きそうな気分になったあと・・・・。


石壁に囲まれた薄暗い室内にオレは立っていた。

足元には、オレの部屋で見たのと同じ魔法陣が描かれている。

ただし、もう光ってはいないが。


周りを見渡すと、壁際には甲冑を着込んだ騎士のような人たちが10人ほどいた。


そして、オレの目の前には・・・40代くらいの男が2人と50代くらいの男が1人いた。


50代くらいの男は、メガネをかけた厳めしい顔で茶色い髪をしている。

40代くらいの男の1人は筋骨隆々で<紫の髪>をしている。


最後の1人、もう1人の40代くらいの男は、少し太り気味で金色の髪をしていた。

彼は、オレをみとめるとほほ笑みを浮かべ、朗らかに声をかけてくる。



「勇者様、ようこそおいで下さいました。どうか我が国、ルナリア帝国を危機からお救いください」



彼の頭の上には、煌びやかな王冠が乗っていた。

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<説明回なので、今回の話の要約>

・光輝は世界を救うため、異世界の女神に<加護持ち>をルナリア帝国の王様(帝王)にするようお願いされる

・光輝の勇者の力は、ゲームのキャラクターと同じ能力で<サポート特化型>

・とりあえず異世界に行ったら<白い馬>から詳しく話を聞けば何とかなると女神に教えてもらう

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