42:勇者の過去(3)ルナリア帝国
王冠が乗っているということは、この男が・・・この40代くらいの男が、ルナリア帝国の王様ということだろう。
そして、騎士が周りいるということはこの石壁の部屋は、ルナリア帝国のどこか・・・ということだろうか?
それにしても、現在の王様を排除し、<加護持ち>を<玉座>に座らせるように女神から承っている勇者・・・つまり、オレをなぜこんな「待ていました」とばかりに現在の王様が歓待するのか、よく分からない。
だけど、一つ分かっていることがある。
いまの現状では、この場で活かせる能力は<素早さ>しかないという事実だ・・・。
オレはこめかみを押さえたくなるのを必死に抑え込む。
あまり無防備に感情をさらすのは、この状況では得策じゃないだろうから。
さっき女神・カトレアからもらった勇者の能力・・・ゲームの<サムド>の能力の中で有用な能力である<転移>は座標を指定しないと飛べない。この世界の地図・・・いや、それどころかこの場所さえ分からないオレには、いま使用することはできない。
この状況で<素早さ>だけで王様の目の前から消えるには、この世界の騎士の戦闘力が未知数すぎる。
・・・・・・それに、本当に<サムド>の能力が使えるのかもわかっていない・・・。
絶望的すぎる状況にさっきまでのめまいがぶりかえしてくるが、ここで倒れてもいい方向にはいかない気がする。
(それなら、とりあえずは相手が友好的な態度なわけだし、相手から情報を聞き出したほうがいいだろう)
瞬時に目の前の状況をそう判断し、オレは即座に<戸惑いの表情を浮かべる>ことにした。
「はじめまして。・・・あの・・・ここは・・・どこでしょうか?あなた方は・・・一体・・・?」
オレは人から「爽やかな好青年」と言われることが多いが、それは計算して「爽やかな好青年」を、演じているからだ。だから、この状況でも即座にその場にあった演技できた。
ちなみになぜ普段、そんなことをしているかというと、「爽やかな好青年」だとモテるゆえに付きまとう、デメリットを結構防いでくれることに気づいたので、そうしている。
中学時代からの親友には、彼女・理奈に一目ぼれしてからの数年にわたる計画を知られたときに、「お前って本当は全然爽やかじゃないよな・・・・真っ黒だよな」と呆れられた。
・・・まぁ、それはいまはいい。
彼女・理奈に再度、会うためにもこの状況を・・・なんとかしなくてはいけない。
オレのこの言葉と態度を受けて、50代くらいのメガネ男は、その厳めしい顔にある眉を少しよせ、40代くらいの筋肉男は、嘲笑するかのように少し笑んだ。
そして王冠をかぶった男は、笑みを深めて言った。
「おや・・・?今代の勇者様は、女神さまから事情を聞かれていないのですか?
ここはルナリア帝国、というこの世界で一番大きな国の王城の地下です。
それでは、私たちから詳しく説明しますので、場所を移しましょうか・・・
ああ。その前にこちらをお付けください。
リーンハルト、例の物を」
「はっ」
リーンハルトと声をかけられて返事をしたのは、40代くらいの筋肉男のほうだった。
彼は手元から、金色に輝く腕輪を取り出し、私に近づいてそれを見せてきた。
戸惑う演技を続けながら、それを見つめる。
腕輪は、年代物のような雰囲気を漂わせているが、宝石が散りばめられ、美しい。かなり高価なものではないだろうか?
「勇者様、そちらはわが国に代々伝わる<勇者の腕輪>です。
ここは王城ですので身分を示すために、そちらをお付けください」
そう言われたとき、つけることを一瞬躊躇した。
信用できるかも分からない男から貰った・・・しかも異世界の品物だ。
本当に<ただの腕輪>かも分からない装飾品をつけるのはリスクが大きすぎる、と感じたのだ。
だが、その一瞬躊躇した瞬間にリーンハルトと呼ばれた筋肉男に腕を取られ、「カチッ」とその腕輪を左腕につけられてしまった。
目を大きく見開く。
(・・・油断した!)
内心焦ったが、王冠をかぶった男は何でもないことのように、オレの腕を一瞥した後、笑みを浮かべながら話を続けた。
「では、勇者様。私についてきてください」
そのあまりにも変わらない友好的な態度に、オレは少し男たちへの警戒を緩めた。
(いま、この場で攻撃をされることはなさそうだな)
そして、現在の<ルナリア帝国>の王様を「敵」の可能性が高い、と警戒したが・・・・・・。
そもそもその警戒自体が間違っているのではないか・・・という可能性に思い至る。
<加護持ち>を<玉座>に座らせなければ、世界が崩壊する。
なら普通、世界を崩壊させるくらいなら、王様だって、玉座を手放すくらいするだろう。
そうして、警戒をだいぶ緩めてついてきた先の応接間。
そこでは、いままでいた騎士は廃され、メガネ男・筋肉男(リーンハルト)・王様とオレの4人だけになる。
4人だけになった応接間で詳しい内容を聞かされたオレは・・・・・・戦慄した。
「このことは通常、王家と一部の高位貴族にしか伝わっていないのですが、ルナリア帝国・・・いえ、五大国と呼ばれる国はすべて、開国以来<加護の紋章を持つ者を王にいただかないと女神ルナリアの加護を失う>という古い言い伝えがあるんです。
もちろんすべての国はその言い伝えに従い、いままで<加護の紋章を持つ者>を玉座に据えてきました。
<加護持ち>が幼子の場合は、成人してからの即位となりますが・・・」
「なるほど・・・」
<加護持ちの紋章>という新しい言葉以外は、女神から話された内容と乖離していなく、安堵する。つまりそういった<不文律>を作ることで、<加護持ち>を自然と<玉座>に座らせて古代魔道具を起動させ、この世界を保ってきたということだ。
納得して、うなずく。
「今回、<特殊召喚陣>が光り、勇者様が召喚されたのは、十中八九、いま<加護の紋章を持つ者>が我が国の玉座に長らくいなく、このままでは<女神の加護>を失うためでしょう。
<加護の紋章を持つ者>は通常、王家の直系・・・その中でも一番血の濃い者に現れるのですが、現在、一番血の濃い私には、残念ながら現れていないんです」
「・・・・なるほど・・・・・・・」
(王家の直系に現れていないから、加護持ちの場所が分からないって話だろうか?)そう疑問を持って王様を見上げた時に、彼は予想外の言葉を言い放った。
「次に一番、血の強い者は分かっているのです。おそらく彼女が加護持ちでしょう。
ただその者は前王、私の父君が囲っていた妾の子でして・・・・さすがに国として、そやつを玉座に据えることはできないんですよ。
・・・・なので、我が国としては、そやつを殺して、私、もしくは私の息子を<加護の紋章を持つ者>にする予定で動いているんです。
その方が混乱も少ないですし、<加護の紋章を持つ者>は生前なら子供にしか受け継がれない紋章も、死ねば大体、血族の中の<血の濃い者>に受け継がれますからね。
次の<加護の紋章を持つ者>は私や息子になるので殺せば間違いないでしょう。
もちろん、この暗殺自体は我が国主導で行いますが、勇者様にもよろしければ、その協力をお願いしたいんですが、いかがでしょうか?」
人を殺すことを何とも思っていないのか、王様は満面の笑みでオレに視線を向けた。
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