第3章 入団までの1年間(2)、帝国の陰謀とグラナダ迷宮
39:覆面男は暗躍する
「失敗したみたいね」
オレが拠点にしている迷宮都市<アッシド>にある小さな一軒家の扉を開けたら、開口一番に<外見年齢20代前半の小柄な女性>に、そう言われた。紫色の長い髪を持つ、片目を眼帯で覆われた可愛らしい雰囲気の女性だ。
オレは彼女を一瞥した後、顔を覆っていた黒い布をはぎ取り、返り血で汚れてしまった上着を脱ぐ。
「まだ・・・期限はあるだろう?・・・・この潜入任務・・・命令は、<2年の間にターゲット4人を全員殺せ>というものだったはずだ。
ベルタも見ていたなら、知ってるはずじゃないか。
いまさっきオレは、ターゲットの1人のアルフレッドに瀕死の重傷を負わせた。
死んでもおかしくないほどの傷だった・・・・。
今頃、死んでいる可能性もあるだろう?」
「・・・・んんん、残念!さっきまで、魔法で彼の様子をうかがってたけど、あの大柄な彼は重症ですが、大丈夫そう!
あなた・・・彼にわざと追撃しなかったでしょ?・・・・本当、次はちゃんとやってよね!
私の・・・私のっっ!猫ちゃんたちの命がかかっているんだから・・・・っっ!!!」
そう言いながら外見年齢20代前半の小柄な女性こと、<ベルタ>は足元にいた大量の猫の一匹を抱えあげ、頬ずりを始めた。
顔が緩んでだらしなくなっているベルタとは対称的に、抱えあげられた猫は嫌そうに「ギニャーッ」と鳴いて、彼女の顔を引っ掻いた。だが、ベルタは気にせず、猫に頬ずりを続けている。
「悪いのはこの手ですか?」とか言いながら。
彼女のセリフから分かる通り、このベルタはオレの命令遂行のため、
彼女の<固有魔法>が、オレの時空魔法<テレポート(転移)>とかなり相性が良いため、オレの
<固有魔法>とは、火や水などを用いた、その属性の魔法適性がありさえすれば大勢の者が使える<属性魔法>と違い、特定の個人、もしくは血族のみしか使えない魔法のこと。
彼女は他国出身の魔導士だし、彼女自身は魔力量が多いから、強力な魔道具である<隷属の腕輪>でもなければ言うことをきかせることなど不可能ではある。・・・・のだが、彼女の溺愛する猫たちはそこらへんの奴隷商で取り扱っている<隷属の首輪>をつければ、どうとでもなる。
彼女・・・ベルタは、それをルナリア帝国に付け狙われたそうだ。
約1か月ほど前に、突然彼女の前に<隷属の首輪>をつけた<大量の猫>を抱えた男が現れて、こう言ったんだとか。
「この猫たちを見殺しにしたくなかったら、これからオレの言うことに協力してもらおう」
・・・と。
ベルタいわく「そんなこと言われたら、言うことを聞くしかないじゃないっっ!!・・・
即答したわよっもちろん!!・・・<はい>ってね!!!!」とのことだ。
そう、このエピソードから分かる通り、彼女は重度の<猫狂い>として知られている。
ちなみに、その人質(猫質?)は飼っていた猫ですらなかったらしい。
・・・・それで暗殺の協力をするとか・・・・・・本当に意味が分からない。
まぁ、そんな経緯を経て・・・・彼女はいま、オレの<相棒、兼監視役>になっている。
ベルタはとても優秀で暗殺向きな魔導士だった。
彼女の固有魔法は「一目見た相手でさえあれば、その人物の<現在の様子と場所>が正確に分かる」というもの。
そして、オレは時空属性の魔法・・・・<テレポート(転移)>が使える。
つまりは・・・・ベルタが知っている人物であれば、その人物の死角に正確に転移することができるということだ。
そうして先ほど命令を遂行するため、彼女と協力し、ターゲットの一人<アルフレッド>に攻撃したのだが・・・想定外の事態に見舞われ、この拠点に逃げ帰ってきたのがいまの状況ってわけだ。
「まさか、あの時の・・・あの娘が・・・あの場にいるなんてな。
事前情報では、アルフレッドはフレデリックと2人で行動しているって話だったのに。
彼女は・・・・このことに巻き込みたくないのに・・・・アルフレッドにフレデリック・・・ターゲットのそばにことごとくいるってことは・・・・・・難しいのかもしれないなぁ・・・・」
そうぼやきながら、オレは溜息をついた。
<日本>ではあまりつくことのなかった、溜息がこの異世界にやってきてからのオレの癖になっていて、イヤになる。
そう。オレはいま覆面をかぶって暗殺まがいなことをやっているが・・・・ある日突然、日本から<特殊召喚陣>というものでルナリア帝国に召喚された異世界人だ。この世界だと<勇者>という奴らしい・・・・。
だが、召喚と同時に<隷属の腕輪>と呼ばれる強力な魔道具で様々な行動を封じられた、ルナリア帝国現帝王の奴隷・・・でもある。
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<説明回なので簡単な要約>
・アルを直接、剣で襲ったのは→魔道具つけられた勇者(=1回目主人公に殺されかけた覆面男)
・アルの居場所を特定して、アルの真後ろに転移できるように勇者に場所を教えてサポートした人→ベルタ(知人の居場所の特定、およびその様子を魔法で見れる能力者)
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