38:迷宮都市、到着
アルフレッドが完全に気を失ってから、私はさらに全速力で街道を駆けた。
身体強化魔法の原理はいまだ分からないが、剣聖時代の<俊足>という技が使えたので、それを使って、可能な限り速く・・・速く。
正直、普通の馬だったら、この私の速度に並走するのは無理だっただろう。
だが、
いや、食らいついてきたと言ったが、
私に「もっと速く走れないの?」というような視線を投げかけてくるから。
私はその視線に首を縦に振り、返事をする。
そして、アルフレッドと自分に風魔法<エアロ>を使用した。
一陣の風が光とともに舞い、アルフレッドと私の体に降り注ぐ。
この魔法は、私が「剣聖」としてプレイしていたゲーム内でよく使用していた防御魔法であらゆるモノから対象を守る風魔法。
慣性の法則があるとはいえ、気を失ったアルフレッドは、これ以上の速度ではライゼの背から落ちる可能性がある。
風の抵抗を少しでも軽減し、その可能性を少しでも減らそうと思ったのだ。
そして、私自身にもかけたのは、風の抵抗がなくなればさらに速度を出せるとの見立てからだ。
やはりさっきより一段階、スピードが上がった。
唇をかみしめながら、駆け抜ける。
どのくらいの時間駆けたのだろうか・・・アルフレッドが私に「アルと呼べっつただろ」みたいなことを呟いて、気を失ってから、結構な時間が経っている気がする。
だが・・・心臓は・・・・・力強く動いている。
アルフレッドの身体は、呼吸に合わせて上下してる。
(・・・きっと・・・・・・大丈夫だ・・・・・・)
「あ~!アルフォンスが・・・・また死んじゃったよぉ~!!」
そんな前世の姉の不吉なセリフが脳裏をかすめるが・・・・首を振って、払いのける。
私自身が<死亡フラグしかないキャラクター>だから忘れがちだが、乙女ゲーム<皇国のファジーランド>の内容は<召喚された聖女が攻略対象者と愛を育みながら、レイ皇国をルナリア帝国の侵略から守り、帝王を倒す>というものだ。
そのため、実は攻略対象者は、全員死亡フラグが立ちやすい。
その中でも、特に隠れキャラクターのアルフォンス(アルフレッド)は、その生い立ちから死亡しやすいキャラクターとして知られていると、姉は言っていた。
(だけど・・・まだ、乙女ゲームは始まっていないし、帝国に戦争を仕掛けられてもいない・・・)
私というイレギュラーな存在はいるが、乙女ゲームの始まる前に、攻略対象者アルフォンス(アルフレッド)が死ぬはずがないと思いたい。
不吉な思考を必死に頭から追い出し、
その甲斐あって、日が暮れる前に・・・・・・ついに<グラナダ迷宮>のある国境沿いの街<アッシド>の城門が見えてきた。
だが、門の前では、長い入場列ができている。
それはそうだろう・・・・ここは迷宮都市<アッシド>。
数多の冒険者が集い、そして彼らが産出する迷宮の資源を買い取ろうと商人も多く集う・・・・南の領地でも<サリム>の次に大きい都市なのだから。
(これを使うしかないな・・・)
兄・フレデリックが、私に貸してくれた領主の息子としての身分証を首から取り出す。
この並んでいる列を通り抜けるには、身分を明かして、特別扱いされたほうがいいと思ったのだ。
並んでいる人を無視して、門の近くにいる衛兵に近づくと、1人の若い衛兵が、私に気づいた。
「なんだ?冒険者か・・・?列に並べ・・・・・・・・って、後ろのヤツ、酷い怪我じゃねぇか!!・・・おいっ、<入門規定>によりこいつらを優先させる。みんな、こいつらに列を譲るんだ!」
私が近づいたことで、衛兵は、私の後ろにいるアルフレッドの様子にも気づいたらしい。
さらにはこの街には<重傷者は入門検査を優先させる>というルールがあるようで、衛兵の言葉に、ほとんどの人が心配しながら、私に快く列を譲ってくれた。
この街の優しさにほっと息をつき、走ったせいで乱れていた息も整える。
「悪いが、こんな状況でも入門検査は必要なんだ。坊主、身分証はあるか?」
衛兵に門の近くまで誘導されながら、話しかけられた。
私は先ほどの身分証ではなく、昨日作ったばかりの冒険者証を取り出した。
「F級冒険者か。なるほど、問題ないな。悪いが、こっちの人の分は出せるか?」
私は、アルフレッドのカバンを漁って、同じく冒険者証を取り出す。
「A級冒険者・・・しかもアルフレッドって・・・あの・・・!?」
冒険者証の内容を見た衛兵が、驚愕の表情で、冒険者証とアルフレッドを見比べる。
「そんな実力者に、何があったんだ・・・って、冒険者に国の機関からの詮索はできねぇな。とにかく入門検査は問題ない!
その様子じゃ、坊主は神殿へ行きたいってことで合ってるか?」
衛兵の言葉に私は力強く頷いた。
「だったら、高位神官のいる神殿に行くといい。あの塔が立っている場所の真下にある。
料金のことは、心配するな。領主代行のハワード様のご配慮で、料金も場合によっては、免除されることもあるし、分割払いや後払いも受け付けている。
それにこの怪我なら、最優先で治癒魔法を受けられるはずだ」
まさかこんなところで、衛兵から叔父の善政を知ることになった私は、思わず嬉しくなり、淡く微笑んでしまった。
「・・・・っ!?・・・坊主、オレが男じゃなかったら、惚れてるぞ・・・・それ・・・・」
衛兵が息を飲んだ後、頬をかいて、さらにはなぜか溜息まで吐かれた。
「?」
「ほら、早くいけ」
「ありがとうございます。・・・ライゼ、あそこだ。行くぞ」
その様子に一度肩をすくめてから、私は近くの屋根に飛び乗って、ライゼを追いかける。
人が多い大都市なら、道を走るより、屋根の上を走るほうが速いと思ったのだ。
衛兵が「マジか・・・?」と呟き、門の近くにいた人々は呆気としていた・・・が、急いでいた私はそのことを知る由もない。
神殿へ着くと、屋根から行った私よりどういうわけか、
「ヒヒン」と鳴く
受付の女性に高位神官の手配を頼むと、頬を染めた後、アルフレッドの様子を見て慌てて駆け出した。
この神殿には、神官以外にも医師が常駐していた。さらにはハイポーションも準備があった。
治癒魔法にハイポーションに、医療技術・・・通された部屋で、すべての治療を受けた。
そうして、ようやくアルフレッドは顔に赤みが差してきた。私はやっと安堵の息をつく。
その後、神官も医師もいなくなった部屋に一人の女性が訪ねてきた。
「エリアス神官から、もう大丈夫だから緊急処置用の部屋から、経過観察用の部屋に場所を移すように言われましたが・・・・あなたも、そこに一緒に泊まりますか?」
現代でいう看護師のような役目をしている神官見習いの女性だった。
彼女は、頬を赤くしながら私にそう聞いてくる。
一度、思案した後、私はその質問に、首肯した。
宿屋に泊まってもいいが、よく考えたらアルフレッドにそのまま連れてこられたせいでお金を持っていないのだ。勝手にアルフレッドの財布から拝借するのも、気が引ける。
「では手続きの準備をしますね。1時間ほどしたら、準備が整うのでまた声をかけてください」
「ああ、ありがとう」
その言葉に、公爵子息教育で得た優雅なほほ笑みではなく、前世から使い慣れた笑顔を向けて、心からのお礼を言う。
そしてもう一度、なんとなくアルフレッドに風魔法<エアロ>をかけてから、部屋を出て厩舎にいくことにした。
神殿の厩舎で、
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