37:鍛錬2日目・アルフォンス(アルフレッド)は、迷宮都市が待ち遠しい(4)

その後・・・覆面の男を退けたフレドにポーションをかけてもらった後、あいつはそのまま何か心配そうな声音でオレに話しかけてきた。


・・・・・・が、オレはもう血を失いすぎたのか、まぶたも開けられねぇ状態だった。

正直、何を言っているのかよく聞こえねぇ。


1つの単語以外・・・・・・。



「アルフレッド殿」



それを名前を耳にしたオレは、(今朝<アル>と呼べと言ったのに・・・もう忘れてやがるのか・・・)とすげぇイラッとした。


・・・で、フレドにそのまま文句を言ってやりたかったのだが・・・・・・情けねぇことに・・・・その力もでなかった。


だから・・・・



(しゃあねぇ。元気になったら、お仕置きだな)



そんな風に思考を飛ばした。

そしたら、ポーションが口の中に流れ込んできたんだ。



・・・・・・・・・・・フレドの口から・・・・・・・。



不意打ちだった。


すげぇ嬉しい。だけど・・・なんだかオレは・・・・すげぇ胸がいたんだ・・・・・・。


そんな感情になるのは、やっぱり・・・オレは・・・・・フレドのことを・・・・



(すげぇ好きだからなんだろう・・・)



目を閉じると、昨日の情景が・・・・・フレドと別れた後に向かった馴染みの娼館での様子が思い起こされた。


いつもの娼婦にキスをしようとした瞬間・・・・・・オレはまったくできなかったのだ。



(こいつじゃねぇ・・・)



・・・と感じて。なんだかよく分からないが、こんなんじゃ今日は無理だと悟ったオレは、家に帰って処理をした。



(いままでこんなことなかったのに、なんなんだ・・・・体調も悪くねぇのに・・・・・・。


まぁ、寝りゃ治るか・・・)



・・・なんて、その時は楽天的に考えてた。

いま思うと、そんな自分を鼻で笑っちまう。



(一晩寝て、治るわけがねぇっつーのに)



フレドを前にすると自分の行動が止まらなくなるのも・・・・胸がイヤに苦しいのも・・・・

・・・・・・娼婦にもうキスさえできねぇのも・・・・・・。



(フレドがすげぇ好きだからだってのに・・・・)



オレがそんな感じで色々と思考を飛ばしているうちに、フレドはオレを白馬ライゼの背に乗せて、白馬ライゼと一緒に並走しだした。

魔獣を斬り伏せながら、必死な形相で森を抜け・・・そして街道にもたどり着き・・・・さらには、その街道もすげぇスピードで駆け抜けていく。



(小便を我慢してた時の比じゃないくらいの速さだな・・・・・)



白馬ライゼも普通の軍馬と比べるとかなり速く走れるから、この分じゃもしかしたら、今日中に迷宮都市・国境沿いの街<アッシド>に着くかもしれない。


まぁ・・・確かに神官の治癒魔法もハイポーションもかなりでかい街じゃなきゃないだろうから・・・・・・ここから一番近いでけぇ街である<アッシド>を最初から目指すのが、最善といえば、そうなのだろう。


ポーションのお陰か、さっきよりだいぶ余裕が出てきたオレは、ライゼの背にもたれかかりながら、走っているフレドの・・・・そのキレイな横顔を見ることにした。



(ああ・・・・・・どうすっかなー。ガキなのに・・・・・・・


そのうえ<男>なのに・・・・・・・・)



昔、母親が言っていた言葉がいまになって、やっと理解できた気がした。


10歳の時、魔法力検査でオレは自分自身が<レイ皇国・前皇王の遺児><王弟>だと分かったときに、母親に尋ねたんだ。



「なんでそんな面倒な相手と、関係を持っちまったんだよ!」



・・・と。まぁ、10歳でその質問をするオレはどう考えても、だいぶませたガキだった。


でも、どう考えても、一介のしかも他国である<ルナリア帝国出身の冒険者>が、<皇王>と関係を持つなんて、バカげていたから聞いたんだ。

下手したら、<間諜>を疑われて処刑される可能性すら、あるだろうに。


そんなオレの辛辣な質問に、母親は豪快に笑いながら、さらにはオレをバシバシ叩きながら答えた。



「好きになっちまったんだから、仕方がないだろう?理屈じゃないんだよ。


お前だってそのうち、わかるよ。母さんの血筋は・・・・・・好きな相手が出来たら、そいつしか見れなくなるタチだからな・・・・」



苦笑するような少し情けない顔をしながら、付け足した母親のその言葉に、オレはいまのいままで・・・・半信半疑だった。


ただの恋で自分の行動が<自分で制御不可能>になることなんてありえねぇ、と思っていたんだ。

10歳の時点だけじゃなく、最近まで・・・この歳になるまでそんな相手は現れたことなどなかったからな。



(関係を持つ相手は、あと腐れない相手に限るだろう・・・?)



・・・とまで思ってさえいたのに・・・・・それなのにいまは・・・・。



(もう・・・・フレド以外には・・・・考えられねぇ・・・・とかな・・・)



どうしたらいいんだろうな・・・・


結婚・・・というゴールにさえたどり着けない・・・・っつーのに。


フレドの身体は・・・まぁ、何とかなったとしても・・・・心は・・・・・・どうだろう・・・・異性愛が主流のレイ皇国で・・・・・・・・更にはフレドは貴族の嫡男だ。


いずれ誰かと結婚するだろう。

もしかして・・・手に入るのさえ・・・・難しい・・・・・・のだろうか・・・・・・・。



(すげぇ、胸が痛い・・・・)



男同士の恋愛なんて、考えたこともなかったのに・・・・いまじゃ、どうすれば成就するような状況になるのか・・・・・・どうしても・・・・考えちまう。


不毛なこの心が・・・この実らなさそうな気持ちが・・・・・・・・



(オレの初恋なのかよ・・・・)



そう自分の心を正確に自覚した途端、<左手の手のひら>が焼けるように痛んだ。



「・・・・・・・ぐっ」



唇を噛んでうめき声を止めようとしても、止まらない。

白馬ライゼがオレを気遣って、歩を緩める。オレの様子に気づき、フレドが駆けよってきた。



「アルフレッド殿、大丈夫か?・・・・・・街まで・・・神官のところまで・・・っもうすぐだからな!」


(ああ・・・こいつは・・・・・・)




痛みと疲労で、オレは意識がぼんやりしてきた。

だが・・・・・・これだけは、言わねぇといけねぇ。




「・・・フレド・・・・・・アルだ・・・上官・・・命令・・・・つったろーが・・・っ・・・・」



そのセリフをちゃんと聞き取ったのだろう。

フレドは眉を寄せて「は?何言ってんだ、こいつ・・・」という顔をした。


オレはその表情に、おかしくなって笑みをこぼした。



「・・・っっ!アルフレッド殿・・・!?」



オレは意識を失う直前になっても、なおもオレを愛称で呼ばないあいつに心で舌打ちをしながら・・・・


そっと目を閉じた。

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