30:鍛錬2日目、迷宮への旅立ち
南の領地・領主の城の一角にある厩舎。
青の応接間から腕をひっぱられた末、私がたどりついたのはその厩舎だった。
厩舎にはフランシス公爵家・領地軍の軍馬が多くいる。
その中でも群を抜いて目立つ大きくて<白い馬>の元へと誘われる。
そこで、私は私の腕をはなさない〈魔法騎士の鍛錬のために派遣された講師〉の発したセリフに、思わず顔をしかめた。
つまりは、アルフレッドのセリフに対して。
「
顔をしかめるのも、当然だ。
昨日アルフレッドは、「明日
断じて「明日
しかも、まさかの泊りがけ宣言である。
昨日、会ったばかりの男と・・・。
喪女にはキツい・・・・・・・ついでに貴族令嬢には、もっとキツい。
「・・・・侍女のメアリも・・・・・・」
「あ”あ”・・・?」
「・・・・・・従者のジンも一緒でしょうか?」
さすがに馬で行くのに、メアリはないな・・・と思って、無表情で「ジン」と言い直したのだが、逆にさっきより、すごい剣幕で睨んでくるからおかしい。
なんなのだ、こいつは・・・。
とりあえず、肩をすくめながら目を閉じる。
「アルフォンス(アルフレッド)はね~、最初はすっごく塩対応なんだけど、頑張って好感度を上げていけば、すっごくデロデロな執着キャラに変身するんだよ~」
前世の姉の声が頭に響く。
ああ・・・そうだった。
こいつは、姉いわく乙女ゲームの隠れキャラで塩対応キャラだった。
でも、実際は、なんかただツラく当たられるだけのキャラとは違う気がする・・・かなり腑に落ちない・・・・・・・・まだ乙女ゲームが始まってないからか?
とりあえず、どうにか2人きりの旅行は阻止しよう。説得だな。
そう思って、目を開こうとしたら、唇に何かがあたった感触がした。
「ん・・・っ」
少し驚きつつも、「なんの感触だ?」と疑問に思い、目を開くと目の前にはキレイな顔が広がっていた。
・・・・・・つまりは、アルフレッドだ。
彼は自分の唇をぺろりと舌でなめている。
しかし、断じてそれが私に触れたわけでは、ない・・・・
はずだ。
なぜなら、いま私の唇をさわさわと、彼の親指が撫でているのだから。
撫でて・・・・・!!?
撫で・・・・・!!!!?
「・・・・・・・っ!!!!!?」
いくら前世で淡白と言われた私でも、こんなの普通に取り乱す。当然だ。
前世は喪女だし、今世も(男のふりをしているとはいえ一応は)貴族令嬢なのだから。
男に唇を触られる行為に慣れているわけなどない。
私が当惑していると、アメジストの瞳がいじわるそうに細められた。
「今日からオレと2人きりで
そう言って、私の唇から親指をはなす。
私はその親指を凝視していた。
アルフレッドは乙女ゲームの攻略対象者。しかも、前世一度だけ
つまりは・・・・姉から延々と見させられた数々の乙女ゲームキャラクタ―の中でも、群を抜いて好みの顔をしているということだ。
こんな状況で、その好みのキレイな顔など直視できるはずもない。
思わず目線をそらしていたら、ぐいっと腰をつかまれた。
次の瞬間、アルフレッドの手によって、先ほどの白い馬の背に乗せられたと気づく。
・・・・そして、私の後ろにアルフレッドが乗った。
私の腰には、アルフレッドの左手が添えられている。
白馬に2人で乗って密着している状態だ。
アルフレッドの体温が体に伝わり、思わず赤面する。
アルフレッドから顔が見えなくて、よかった。
いまの私は確実に兄・フレデリックのふりなどできていない。
「この馬は、準成人になってからずっとオレのパートナーをしているライゼだ。
ライゼ、こいつは
アルフレッドがそう紹介すると、「ヒヒン」と可愛らしくライゼが返事をした。
どうやら飼い主に似ず、愛想はいいらしい。
「舌、かむなよぉ?」
いじわるそうな声音で呟き、またさりげなく私の口の中に軽く親指を入れるアルフレッド。
そうしてそのアルフレッドの声に呼応するように、白馬・ライゼが駆けだした。
私はいま思えば、この状況にとても混乱していたのだろう(まぁ、混乱しない喪女などいない・・・!)。
この旅を阻止するための説得・・・・
「この泊りがけの鍛錬内容は領主代行の叔父に許可は取ったのでしょうか?」とか「着替えを持っていないんですが?」とか
・・・・・・を全くできずに、出発してしまったのだから。
私がそれに気づいたのは、南の領地最大都市<サリム>にある領主の城が見えなくなってから・・・つまり、もう今から戻っても1泊は決定・・・といえる距離が離れてからだった。
(仕方ないか。迷宮で魔獣狩り自体は、とても楽しみだし・・・・・・これから男のふりをするなら、身内以外の男に少しでも慣れたほうがいい・・・・・・・)
そう自分を納得させながら、肩をすくめる。
だけど、まだこの時の私は知らなかった。
・・・・・・この2人旅の予定が3週間もあるということを。
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