31:鍛錬2日目、迷宮都市にまだ着かない(1)
「闇の弓矢で切り刻め。ダークアロー・・・ダークアロー・・・・・・喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らい尽くせ・・・・・・フレイム」
アルフレッドが魔法を唱えると、体長1mほどのアスコモイドと呼ばれるキノコ型の魔獣たちが魔法の弓に貫かれ、キラープラントと呼ばれる歩く木のような魔獣が燃え上がる。
そんな風にこともなげに魔獣を倒すアルフレッド。
剣を手にしてはいるが、2人乗りでは使いづらいのだろう。もっぱら魔法を使って倒している。
付け焼刃の公爵子息教育で得た知識によると、それらの魔獣はD級に位置するはずだ。
魔獣も冒険者同様、S級からF級に分類され、F級が一番弱い。
D級は普通の冒険者なら、数人がかりで倒せる魔獣と言われる。
さすが元副騎士団長、そしてA級冒険者ということか。
私も魔法を放ったり剣をふるったりしたくて、うずうずするが、そんな隙を与えないほどアルフレッドは魔獣相手に圧倒していた。
ところで、いま何故魔獣退治をしている状況なのかというと、南の領地最大都市<サリム>の城が見えなくなってから・・・・・・つまりは正気を取り戻した私が、とりあえずこの馬上での密着状態をどうにかしようと思ったことに起因する。
剣聖時代の再現からか、<身体強化魔法>を使用した私は、馬と余裕で並走することができる。
だから、言った。
「白馬から・・・いや、ライゼから降りたいんですが?」
・・・・・・と。
そしたら何を勘違いしたのか、アルフレッドは「ん・・・小便か?」と言って、ずっと走っていた大きな街道をそれた。
いま思えば私が説明不足だった感は否めない。
「小便」という言葉に私の中の貴族令嬢「レティシア」が戸惑ったせいで、私自身その言葉を否定するタイミングも逃してしまった。
だが、用を足すにしても・・・・・・街道の先には村か街があるのだから、道をそれる必要などないと思うのだ。
明らかに禍々しい気配のする森に入る意味が分からない。
さっきから来る魔獣は、D級ばかり。たまにC級もいる気がするのは絶対気のせいじゃないだろう。
その禍々しい森の中を白馬で駆け抜けながら、私は後ろを振り向いて、アルフレッドに問いかけた。
魔獣だらけの森だが、<剣聖>時代から使っている私の気配察知能力によると、もう生きている魔獣はこの近くにはいないので、少し気を抜いても平気なはずだ。
「・・・・・・魔石は取らないんでしょうか?」
以前、兄・フレデリックやジンと森に入った時は、倒した魔獣から魔石を取っていた・・・ということを思い出しての問いだ。
日本でいう電化製品と電気の関係が、この世界では魔道具と魔石の関係に当てはまる。
D級、さらにはC級の魔石ともなれば、大きな動力・・・・・・資源であることは間違いないはず。
それなのに、魔石を取らずにアルフレッドは魔獣をそのまま放置していたのだから、疑問にも思う。
ちなみにもうこの森に入ったことを責め立てるつもりはさらさらない。
馬から降りたら、私も魔獣狩りをしたいしな。
アルフレッドはそんな私の問いには答えなかった。
倒した魔獣を避けながら
そんな中しゃべったせいで、私は少し口元を汚してしまったのだろう。
「ツバ、飛んでんじゃねぇか。・・・・・・・もったいねぇ」
答えの代わりに、アルフレッドはそう呟いた。
端正な顔が私の顔に近づいてきた。
たとえばこれがジンなら難なく避けれただろう。
<剣聖>の動きを再現できる私の方が実力は上なのだから。
しかし、近づいてきた相手はアルフレッドだ。
私の至近距離からの投石を余裕顔で受け止めた・・・・・・魔法騎士第三騎士団の元副団長様だ。
チュッというリップ音が森の中に響いた。
私の唇の端にアルフレッドの唇がつき、そして・・・・・・アルフレッドがペロリと私の唇についていたツバを舐めとった。
「・・・・・・・・・っっ!!」
ゴクリッとどちらからともなく、喉がなる音が聞こえた。
鳥の鳴き声が静かな森にチュンチュンと響きわたり、木々のざわめきが遠くから聞こえる。
視界の端には、簡素な小屋が見えた。
もしかしたら、アルフレッドは私が用を足せるよう、この小屋に連れてきたのかもしれない。
どこか現実逃避のように周囲の様子を観察していたら、またアルフレッドの端正な顔が近づいてきた。
思わず、小首をかしげながらアルフレッドを見上げてしまった。
私の中の喪女が色々キャパオーバーでパニックをおこしすぎて、咄嗟に出たのが貴族令嬢レティシアの仕草だったのだ。
アメジストの瞳が細められて、口元は面白そうに三日月にゆがんだ。
「まだついてんな・・・」
唇に親指を這わされ、瞳を覗き込まれた。
心臓がうるさく鳴っている。私の顔はいま真っ赤だろう。
赤い顔を・・・潤んだ瞳を・・・アルフレッドから隠せている気がしない。
「・・はっ。・・・んな、物欲しそうな顔、オレ以外にすんじゃねぇぞ?」
そう言って、彼は噛みつくように私にキスをした。
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