28:ある従者の日常・ルナリア帝国の陰謀(1)

レティシアがレイ皇国<南の領地サリム>にある城でアルフレッドの訪問を受けていた頃・・・。


<ルナリア帝国帝都ニルド>の貴族街では、その貴族街で一・二を争うほどの大きな屋敷であることが起こっていた。


屋敷の片隅にある奴隷用の掘っ立て小屋。


その小屋を、しかめっつらの壮年の男が覗く。

男の身長は170cm程とこの世界の男性にしては少し低い。

だが、壮年とは思えない筋肉質な身体をしていた。


彼の後ろには30代後半のやせ型の男がいる。服装からして、この男の従者だろう。


男が覗いた小屋の中には、寒いのか・・・・・・うずくまる様にして、膝を抱えている人物が一人いた。


その人物のまとう服は、ところどころヤブれてボロボロ。

孤児でさえ、もう少し良い服を着ているというのに酷すぎる恰好といえる。



「相変わらず、ここは、くせぇなぁ・・・。

来い、陛下より命令が下った。お前にはもう一度、レイ皇国へ行ってもらう」



その人物に声をかけたのは壮年の男こと、

紫の髪に緑色の目をした<ルナリア帝国近衛騎士団長>にして<伯爵家当主>のリーンハルト・オイストルだ。


なぜ近衛騎士団長自らがこんな汚い場所に赴いたのかというと、この中にいる人物の言うことを聞かせられるのが、この男以外には<この国の宰相と帝王陛下>しかいないからだ。


通常の奴隷ならば<主登録>が無制限な<隷属の首輪>という魔道具を使い、言うことを聞かせられることができる。

だが、中にいる人物がつけているのは、隷属の首輪ではなく、<隷属の腕輪>だ。


<隷属の腕輪>は、迷宮からでたアーティファクト・古代魔道具で、腕につけることさえできれば、災害級魔獣のヒュドラさえ御せるといわれるほどの代物。

この世に3つと存在しない貴重で強力なアイテムなのである。


しかしそれゆえに、<主登録>が3人しかできない、という縛りがあった。


つまり・・・・・・この人物は<隷属の首輪>ではなく、<隷属の腕輪>をつけさせなければ、御せないほどの力の持ち主ということ・・・・・・。


中にいた奴隷の男は、リーンハルトの言葉に反応して、勢いよく顔をあげた。



「レイ皇国だと!?まさか・・・またあの子供を殺しに行けとか言うんじゃないだろうな」


「あー、近づくんじゃねぇ。お前匂うんだよ・・・」



リーンハルトはそう言ったが、奴隷の男は彼に近づくのはやめない。

<隷属の腕輪>は、登録者の命令に従わなかった奴隷に対し、心臓に燃え盛るような痛みを植え付ける。


即座にそれが起動する。



「ぐがぁあああああっっっ」


「ぷっ。ぶざまだなぁ。<召喚された勇者様>も、隷属の腕輪の前じゃ形無しだ。

帝王陛下がすべての<特殊召喚魔法陣>を集めたがるのも分かるぜ」



そう言って、へらへら笑いながら、リーンハルトは従者に顎で指示を出す。

あまりの痛みで気を失ってしまった奴隷の男・・・いや、勇者を運ぶように。



「さすがに潜入任務にくせぇまま行かせるわけには、いかないな。

水をぶっかけて、着替えさせたら、鍛錬場まで連れてこい」



リーンハルトの言葉を受けて、従者は「かしこまりました」と恭しく頭を下げる。


そうして、リーンハルトが視界から消えたのを確認して、従者の男はぼそっと呟く。



「勇者様をこんな目にあわすなんて・・・ルナリア帝国に女神様の災禍が降りかからなければいいが・・・・・・」



・・・・と。

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