27:アルフォンス(アルフレッド)の朝の応接間(2)

---グラナダ迷宮---


魔獣や貴重なアイテムが自然発生ポップアップする場所、「迷宮」。

あまたのファンタジー世界同様と同様、この乙女ゲーム<皇国のファジーランド>の世界にも存在する。


その中でもグラナダ迷宮は、過去何人もの冒険者・騎士が踏破したことのあるいわゆる中級者向けと呼ばれる迷宮だ。


この南の領地内最大都市<サリム>からさらに南下した<ルナリア帝国>との国境沿いの街<アッシド>にある。



オレが「あいつと一緒にグラナダ迷宮に行く」そう告げた瞬間、目の前のアイオスの目は一気に見開かれた。

そして次の瞬間、不安そうにそのキレイなアッシュグレイの瞳を揺らす。


さっきまでのオレの殺気すら物ともしない、どこか飄々とした雰囲気が全くなくなった。



(何でこんな衝撃を受けてんだ?こいつは・・・・・・・。上級者向けの迷宮に行くわけでもないっていうのに)


「グラナダ迷宮って・・・ここから馬に乗っても行くだけで2日がかりじゃないですか!」



その時、さっきあいつをフレド呼びした男・ジンが、思わずといった調子でわめいた。



(なるほど。泊りがけになるのが、心配なのか?

どんだけお坊ちゃん扱いされてるんだよ、あいつは・・・・・・)


「ああ・・・日帰りじゃ無理だろうな。それにできれば踏破したい。

3週間くらいあいつを借りていくつもりだ」


「あっ・・・ああっ・・・」



なぜかその言葉を受けて、ジンではなく、扉の前にいた侍女メアリが小さな悲鳴をあげた。



「?」


「・・・・・・ジンも一緒に連れて行ってはくれないでしょうか?

まだフレデリック様は本調子じゃないので、私たちも不安でして・・・・・・」


アイオスが話を続ける。



「あれで本調子じゃないのか・・・?」


(それは、すげぇ楽しみだ)



だが・・・・・・。



「却下だ」



目の前のアイオスが絶望の表情を浮かべた。



(坊ちゃん扱いもここまでくると酷すぎるな)



思わず、息を吐く。



「魔法騎士団に入ったら、遠征なんてそれこそ山ほどあるぞ。

貴族の坊ちゃん扱いは、オレが講師になった以上、この鍛錬でさせるつもりはない。


あいつも望んでないだろ?


それに大体、あいつはかなり強いぞ?

オレだってもちろん強い。護衛なんてただの足手まといにしかならねぇよ」



「そ・・・・そういうことじゃないんですよぉ・・・ああ、まずいな・・・・・この事態は公爵様も想定外じゃないか・・・・・・・・?」



なぜだかぶつぶつとジンとかいう男が呟いているが、よく聞こえない。


まぁ、だけど、これから<あいつと3週間2人きりで迷宮で魔獣狩りをする>と考えていたら、かなり気分が良くなってきた。



(もうこのジンとかいう男が、あいつを愛称で呼んだこともどうでもよくなるな。


・・・いや、全然どうでもよくねぇ・・・・・・・!


忌々しい。こうなったら、オレもあいつを愛称で呼ぶしかないな。

加えて、あいつにもオレを愛称で呼んでもらおう。


それがいい)



あいつが俺のことを<アル>と呼ぶ場面を想像したら、愉快な気分になってきた。

その時・・・・・・。



コンコンッ


「失礼いたします。フレデリック様をお連れいたしました」



・・・あいつがやっと扉から入ってきた。



(はぁ、やっと来たか)



そうして、扉から入ってきたあいつの姿を目におさめたら、さらにオレの気分は上昇した。



(昨日の豪奢な鍛錬服は、王族のオレより王子っぽかったが、今日の冒険者風の装いは、あいつがより身近に感じられるようですげぇいい。


オレがすべて買ってやったというのも、すげぇそそる・・・)



思考がずれていくが、もはやオレにはその訂正など不要だ。


まぁ、そんなこんなで、あいつとアイオスと、ジンとかいう男と交えて少し話すことになった。

そこでは、あいつに(上官命令を発動して)念願の<アル>呼びもさせることができた。


満足した。

・・・・・・だが、あることに気づいた。


ジンとかいう男より、<アイオスの方があいつとの距離が近い>という事実に。


<男>と<女>だったら、恋人同士しかしないような仕草まで<あいつ>からしている。



イライラした。また病気かと思うほど、胸が痛くなる。



(あいつから、すぐにアイオスを引き離さねぇと)



そう思ったらもう体が勝手に動いていた。


あいつの腕を掴み、強引にオレは扉から出ていく。


しかし、扉から出る間際、あいつはこういったんだ。

アイオスに向かって。



「アイオス、そんなに心配しないで。そんな顔では、せっかくの男前が台無しだよ」



・・・・・・と。

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